source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
記憶喪失の男が自分自身と向き合う物語「味園ユニバース」。映画初主演の渋谷すばるのパンチの効いた歌声がいい。
大阪のとある広場で行われていた、バンド・赤犬のライブの最中に、傷だらけの男がふらふらと現れ、突如マイクを奪って歌い始める。圧倒的な歌声を披露した後、意識を失って倒れたその男に興味を持った、赤犬のマネージャーのカスミは、彼を自宅に連れ帰り、ポチ男と名付けて面倒を見ることに。やがてバンドのヴォーカルを務めることになったポチ男だが、彼の過去には、トンデモナイ問題があった…。
タイトルになっている味園ユニバースとは、大阪“ウラなんば”にある複合施設のビルの名称で、関西のサブカルチャーの発信地として知られている。その独特の雰囲気や庶民感覚は地元の人にしかわからないかもしれないが、レトロな香りが漂うその街は、身元不明の人間を迎え入れるおおらかさがあるのだろう。さらに、インディーズ音楽シーンの熱気からもわかるように、雑多で熱い文化を発信するスポットのようだ。記憶喪失で歌が上手いポチ男こと大森茂雄は、断片的な記憶から自分自身の情報を集めているのだが、行きつく事実は決して甘くない。薄汚れてイタい本当の自分自身に向き合うためにも、彼には歌が必要なのだ。アイドルグループ、関ジャニの渋谷すばるは、映画には過去にも出演しているが、単独主演は本作が初めて。彼の歌唱力を最大限に引き出すために、歌やライブのシーンがふんだんに盛り込まれるが、青春音楽映画の傑作「リンダ リンダ リンダ」の山下敦弘監督は、渋谷を決してアイドル扱いせず、むしろ、クタビれ具合が味がある枯れた男として描いた。それが渋谷の個性に驚くほどマッチしていて、この人は、案外、俳優としていいものを持っているかも…と感じさせる。二階堂ふみ演じるカスミも、記憶を失くしたポチ男も、時にやり場のない怒りやいらだちを音楽にぶつけ、すべての思いをのせたクライマックスのライブへと昇華していく。恋愛要素はほぼないのだが、それが案外、清々しさの要因かもしれない。
【65点】
(原題「味園ユニバース」)
(日本/山下敦弘監督/渋谷すばる、二階堂ふみ、鈴木紗理奈、他)
(音楽映画度:★★★★☆)
・味園ユニバース@ぴあ映画生活