source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
(ショートバージョン)
日本軍の敗戦が濃厚な第2次世界大戦末期。フィリピン戦線・レイテ島で、一等兵の田村は結核のため野戦病院へと送られるが、食糧難のため早々に追い出される。だが部隊からも拒否され、行くあてもなくジャングルを彷徨うことに。飢えと暑さと孤独の中、撤退中の部隊と合流した田村は徐々に正気を失っていく…。
国際的にも評価が高い塚本晋也監督が私財をなげうって作った、自主製作映画「野火」の原作は、戦争文学の代表作である大岡昇平の同名小説。かつて名匠・市川崑監督が1952年に映画化しているが、本作はリメイクという感じではない。市川版が正攻法のドラマとすれば、塚本版は作家性が強いシュールなインディーズ映画だ。主人公・田村一等兵は監督自身が演じていて、ごく平凡な男が、戦争という極限状態に放り込まれ、少しずつ人間性を失っていくプロセスが冷徹なまでに描写される。特に映像は鮮烈だ。原色の自然の中に黒々とした人間がいるかと思えば、スプラッタ・ホラーに近い衝撃的な人体破壊も。有名な“猿の肉”についてもしっかりと描かれる。もはや主人公が戦うのは敵兵ではなく、自分を“肉”と見る同胞という狂気。これこそ、戦争とは人間が人間でなくなる蛮行なのだと思い知る。低予算の自主映画とは思えない強烈なインパクトを残す本作、戦後70年という節目の年だからこそ、この映画の底知れない恐ろしさ、戦争の狂気が胸に迫る。
国際的にも評価が高い塚本晋也監督が私財をなげうって作った、自主製作映画「野火」の原作は、戦争文学の代表作である大岡昇平の同名小説。かつて名匠・市川崑監督が1952年に映画化しているが、本作はリメイクという感じではない。市川版が正攻法のドラマとすれば、塚本版は作家性が強いシュールなインディーズ映画だ。主人公・田村一等兵は監督自身が演じていて、ごく平凡な男が、戦争という極限状態に放り込まれ、少しずつ人間性を失っていくプロセスが冷徹なまでに描写される。特に映像は鮮烈だ。原色の自然の中に黒々とした人間がいるかと思えば、スプラッタ・ホラーに近い衝撃的な人体破壊も。有名な“猿の肉”についてもしっかりと描かれる。もはや主人公が戦うのは敵兵ではなく、自分を“肉”と見る同胞という狂気。これこそ、戦争とは人間が人間でなくなる蛮行なのだと思い知る。低予算の自主映画とは思えない強烈なインパクトを残す本作、戦後70年という節目の年だからこそ、この映画の底知れない恐ろしさ、戦争の狂気が胸に迫る。
【70点】
(原題「野火/FIRES ON THE PLAIN」)
(日本/塚本晋也監督/塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、他)