2015年8月18日火曜日

ふたつの名前を持つ少年

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


Lauf Junge Lauf
ユダヤ人であることを隠し過酷な戦争を生き抜いた少年の実話「ふたつの名前を持つ少年」。双子兄弟の演技に胸を打たれる。

第二次世界大戦下のポーランド。8歳の少年スルリックは、ユダヤ人強制居住区から脱走。飢えと寒さで行き倒れたところをヤンチック夫人に助けられる。スルリックの利発さと愛らしさを知った夫人は、ユダヤ人であることを隠して生きる術を教え、追っ手から逃がす。ポーランド人孤児ユレクを名乗ったスルリックは、寝床と食べ物を求めて農村を渡り歩くが…。

原作はウーリー・オルレブの児童文学「走れ、走って逃げろ」。ナチス占領下でのユダヤ人の子どもを描く映画は、例えば「さよなら子どもたち」のように、実話をもとにした名作が多い。本作は、どれほど過酷な運命に遭遇しようとも、生きることを決してあきらめない少年の生命力が際立つ物語だ。森でのサバイバル、ポーランド人孤児を装うための徹底した訓練、農村では優しい人もいれば、拒絶する人、あるいはユレクを利用しようとする人もいる。だが父親との約束を胸に懸命に生き抜くユレクには、ユダヤ人であるというだけで、どうしてこれほどまでに迫害されなければいけないのか?!と自問する余裕さえなかっただろう。ユレクを演じているのはアンジェイとカミルの双子の兄弟で、アンジェイは強い意志の表情、カミルは愛らしい笑顔と、ユレクが置かれた状況によって演じ分けているそうだ。ペペ・ダンカート監督自身が一卵性双生児だそうで、双子の少年の心理を熟知しての演出が見事である。アンジェイ・ワイダは「聖週間」で、ホロコーストに対してただ傍観するだけだったなら、ポーランドはナチスの被害者ではあるが無実ではないと訴えた、本作もまた、ポーランド人の対ユダヤ人感情をあらわにする複雑な作品だ。だが本作は、何よりも、戦争で多くの人の人間性が破壊された中でも、くじけない心を持てるという希望の物語であることが、大きな感動を呼ぶ。
【70点】
(原題「LAUF JUNGE LAUF/RUN BOY RUN」)
(独・仏/ペペ・ダンカート監督/アンジェイ・トカチ、カミル・トカチ、ジャネット・ハイン、他)
(サバイバル度:★★★★★)
チケットぴあ

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