2015年9月13日日曜日

天空の蜂

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


天空の蜂 (講談社文庫)
原発をテーマにした社会派クライシス・サスペンス「天空の蜂」。見事に現代社会の問題を射抜いたエンタテインメント。

1995年・夏。最新の設備を搭載した自衛隊用超巨大ヘリ“ビッグB”が、遠隔操作によってハイジャックされる事件が発生する。ヘリは原子力発電所“新陽”の上空で静止しホバリングを開始。“天空の蜂”を名乗る犯人は、全国すべての原発の停止を要求し、従わない場合は大量の爆発物を搭載したヘリを原子炉に墜落させると宣言する。ヘリ設計士・湯原と原子力発電所設計士・三島は、日本が消滅しかねない絶対絶命の危機を回避するべく奔走するが、政府は原発破棄に難色を示す。タイムリミットが迫る中、謎のテロリストとの攻防が始まった…。

原作は人気作家・東野圭吾の傑作小説。1995年刊行の小説だが、東日本大震災とその後の原発事故を経験した日本人にとって、とても20年も前に書かれたとは思えないリアルな恐怖がある。脱原発、原発稼働の脆弱性、政府の思惑と政治的駆け引きなど、かなり難解な内容なのに、比較的すんなりとストーリーを追えるのは、私たちが現実に起こった原発事故を目の当たりにしニュースなどでさんざん専門用語を聞いてきたからだ。何より社会派サスペンスであるこの物語を、エンタテインメントとして仕上げているのがクレバーな点である。あらゆるジャンルを器用にこなす堤幸彦監督の手腕と、江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵、綾野剛といった人気俳優の起用が、映画を身近なものにしてくれた。物語は、ヘリ設計士・湯原の家族愛のドラマをからめつつ、実行犯と思いがけない共犯者、さらに彼らの背景を紐解いていく。原発に携わる人々や巨大ヘリを作る人間の側からだけのドラマで、現実の国民の混乱はほとんど登場しない。政治的暗部の描き方もやや浅い。それでも、緊迫感あふれるストーリーから一瞬も目が離せなかった。原発の是非に答をだすよりも、あくまでも問題提起という立ち位置に徹したことが、この社会派エンタメ映画を意義あるものにしている。
【80点】
(原題「天空の蜂」)
(日本/堤幸彦監督/江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵、他)
(緊張感度:★★★★☆)
チケットぴあ

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