2015年10月3日土曜日

岸辺の旅

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


岸辺の旅 (文春文庫)
(ショートバージョン)
3年間行方不明だった夫の優介が、突然、妻の瑞希のもとへ戻ってくる。優介は「自分は死んだ」と告げ、瑞希に一緒に旅に出ようと誘う。それは優介がお世話になった人々を訪ねる旅だった。空白の時間を埋めるかのように、ふたりは各地を転々としながら、互いのことを深く知るようになる。そして優介が姿を消した本当の理由が明かされるが、彼が瑞希にさよならを言う時は刻々と迫っていた…。

湯本香樹実の小説を映画化した「岸辺の旅」は、夫婦二人の旅を描くラブストーリーだ。死者と生者が何の疑問もなく同居している不思議なストーリーである。岸辺とはおそらく彼岸のことだろう。あちら側とこちら側の境界線は限りなく曖昧で、黒沢清監督ならではの不気味なホラーテイストもしっかりと味わえる。全編を不穏な空気で包みながらも、それでもこの物語はどこかあたたかみがあるのだ。「俺、死んだよ」としれっと言う優介と、その言葉をあっさりと受け止めるだけでなく一緒に旅までしてしまう瑞希。映画序盤で、説明抜きで生と死をさらりと超越してみせるのが上手い。ほのぼのとしたエピソードもあれば、後悔や無念、時には執念もある。いったいこの夫婦はどこへ向かうのか。ひょうひょうとした浅野忠信、静かだがどこか凄味を感じさせる深津絵里、ひときわ存在感がある小松政夫と、役者も揃っているが、中でも短い登場シーンながら強烈な爪痕を残す蒼井優が印象的だ。現実と幻を同じ地平で描きつつ、しっかりと未来を肯定する物語に仕上がっている。
【70点】
(原題「岸辺の旅」)
(日本/黒沢清監督/深津絵里、浅野忠信、小松政夫、他)
(不穏度:★★★☆☆)
チケットぴあ

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