source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
ベルギーのブリュッセルのとあるアパートに家族と一緒に住んでいる神は、慈悲深いイメージとは程遠い嫌なヤツだった。パソコンを使って面白半分に災害や事故を引き起こし、小さな不快の法則を作ったりしながら、世界を管理している。神の娘で10歳のエアは、全知全能なくせに人々を救わない、いじわるな父親に怒りを覚え、家出を決意。アパートを出る直前、エアは立ち入りを禁じらている父の部屋に入り、パソコンをいじって、世界中の人々のスマホに余命を知らせるメールを送信する。エアは大パニックに陥った世界を救う旅に出るが…。
人間に余命を知らせるメールを送ってしまった神様の娘が、行く先々で小さな奇跡をもたらす異色の宗教ファンタジー「神様メール」。ベルギーの鬼才ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の作品は、オフビートなキャラクター、ブラックな笑い、シリアスな設定を奇想天外なアイデアで描くなど、予測不能な作風が特徴だ。本作もまたしかり。神様とその家族がブリュッセルのアパートに住んでいたり、神がひねくれ者のエゴイストだったり、パソコンで人間の運命を管理していたり。設定がいちいち可笑しいが、これは単純なコメディーではない。人々はエアから送られてきたメールで自分の余命を知るのだが、死期を知ることはすなわち、生きることを究極的に見つめなおすことにつながる。残り時間、自分が本当にしたいことは何なのか。北極まで大冒険に出る会社員もいれば、ゴリラと恋に落ちる主婦、不死身の美女を愛してしまう殺し屋もいる。どうせまだ死なないからと遊び半分で自殺(?)を繰り返すものも。そんな極端な人々がいる一方で、自分が亡き後の子どもの行く末を心配する親もいるのだ。生きがいをみつける手伝いをするエアが、それぞれの“心の音楽”を聞かせる設定がしゃれている。神の長男のJC(イエス・キリスト)はどうやら父とソリがあわなかったようで、妹のエアに父の弱点を教えながら「新・新約聖書」を書くようにすすめる。そして、エアのもたらす奇跡がやがて世界を変えていくのだ。教会やバチカンが聞いたら激怒しそうな内容だが、単に宗教を笑いとばすだけでなく、時に揺らいでしまいがちな信仰をもう一度精査してみてはどうかと提案しているかのよう。ラストのぶっ飛んだ幸福感、エアを演じるプリ・グロワーヌのキュートな魅力、笑いの影に隠された深いテーマ。見所満載のファンキーな佳作である。
【75点】
(原題「LE TOUT NOUVEAU TESTAMENT/THE BRAND NEW TESTAMENT」)
(ベルギー・仏・ルクセンブルグ/ジャコ・ヴァン・ドルマル監督/ブノワ・ポールヴールド、カトリーヌ・ドヌーヴ、フランソワ・ダミアン、他)
・神様メール|映画情報のぴあ映画生活