2016年5月23日月曜日

山河ノスタルジア

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評




1999年、山西省汾陽。小学校教師・タオは、炭鉱作業員リャンズーと実業家のジンシェンの二人から求愛されていた。その後、タオはジンシェンと結婚し最愛の息子ダオラーが生まれる。2014年、離婚して一人で汾陽で暮らすタオは、身体を壊したリャンズーとの再会、父親の死などの悲しみに遭遇する。さらに久しぶりに再会した息子ダオラーが、ジンシェンと共にオーストラリアに移住するという事実を知らされる。2025年。移住先のオーストラリアで19歳に成長したダオラーは、父親との確執の中、かすかに残る母親の記憶をたどり始める…。

激変する中国社会を背景に普遍の母子の絆を描く「山河ノスタルジア」。世界的に評価が高いジャ・ジャンクー監督は、前作「罪の手触り」で激しいバイオレンスをテーマにしたが、本作では一転、家族の、とりわけ母子のヒューマンドラマをじっくりと描いている。著しい経済発展を遂げた中国は何を得て何を失ったか。これはここ数年のジャンクー作品での一貫したテーマだが、本作のヒロインのタオは、経済的に豊かな結婚を選び人生の勝ち組となったかにみえたが、離婚し、息子を奪われるなど、払わねばならない代償は大きかった。息子の名前のダオラーとは米ドルの意味で、中国の過剰な拝金主義への強烈なメタファーになっている。過去1999年、現代2014年、未来2025年と、3つの時代を3つの異なるスクリーンサイズで描写する試みなど、大胆なチャレンジも見られるが、スコープ画面のどこか空虚な趣は、人間同士の絆が希薄になった時代に重なっているようにみえる。それでもジャンクー監督は信じているのだ。どんな時代、どんな価値観になろうとも、母子の絆は決して失われることはないということを。ジャンクー作品のミューズであるチャオ・タオの寂しげな横顔が印象に残る。
【70点】
(原題「MOUNTAINS MAY DEPART」)
(中国・日本・仏/ジャ・ジャンクー監督/チャオ・タオ、チャン・イー、リャン・ジンドン、他)
(母子愛度:★★★★☆)
チケットぴあ

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