source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
母国スペインから3ヶ月前にドイツのベルリンにやってきたヴィクトリア。クラブで楽しんだ後、帰ろうとするが、夜明け前の路上て地元の青年4人組に声をかけられる。まだドイツ語をうまく話せないヴィクトリアだが、つたない会話で彼らと酒を酌み交わし、おしゃべりをして楽しい時を過ごす。その後ヴィクトリアは、酔いつぶれた仲間の代わりに車の運転の代行を頼まれ引き受けるが、予想もしない犯罪に巻き込まれていく…。
ほとんど見知らぬ土地で平凡な女性が犯罪に巻き込まれ共犯者になってしまう一夜を描くクライム・サスペンス「ヴィクトリア」。この作品は約140分だが、2時間を超える長さを、ワンカットで撮影するという驚愕の手法で描かれている。映画1本をつなぎ目なしのワンカットで撮影する高難易度のスタイルは「エルミタージュ幻想」や「バードマン」(実はワンカットにみせかけたスタイル)など、前例はいくつかある。長回しという撮影は、そもそもかなりハードルが高く、ヒッチコックやデ・パルマ、アルトマンなど、こだわりが強い映像作家が好むものだ。本作は、ほぼリアルタイム、2時間を超える長さでのワンカット、さらに緊張感が持続するサスペンスというジャンルでの挑戦というところに、作り手のチャレンジ精神が強く感じられる。ただ、ワンカットという技巧に傾きすぎて、肝心のストーリーが、ややリアリティに欠けるのが惜しい。いくら情熱的なスペイン女性でも、いきなり見ず知らずの男性4人組についていって犯罪に加担してしまう展開には、首をかしげるし、登場人物に感情移入も難しい。それでもこの作品のワンカットは、異常なまでに迫力があって、文字通り、目が離せない。屋内、屋外と移動するカメラ、途中で無駄に難しい曲を演奏するなど、俳優が失敗したら、すべて水の泡…のような演出が施され、見る側にも緊張感が伝染してしまったのかもしれない。何しろ、稀有な映画体験であることは間違いない。
【55点】
(原題「VICTORIA」)
(ドイツ/ゼバスチャン・シッパー監督/ライア・コスタ、フレデリック・ラウ、フランツ・ロゴフスキ、他)
・ヴィクトリア|映画情報のぴあ映画生活