2015年5月4日月曜日

ザ・トライブ

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評




聴覚障害者の主人公が悪の道と恋を知る異色の青春ドラマ「ザ・トライブ」。これは新感覚のサイレント・アクション・ムービーだ。

ウクライナのキエフ郊外。セルゲイは聾唖者専門の寄宿学校に入学するが、そこは犯罪や売春などを行う悪の組織・族(トライブ)が支配するヒエラルキーが形成されていた。セルゲイは手ひどい洗礼を受けるものの、意外な強さを発揮し、族の仲間に認められる。犯罪に加担し組織の中でのしあがっていくセルゲイだったが、やがてリーダーの愛人の一人のアナに惹かれ、組織のルールを破ることになる…。

出演者全員が聴覚障害者。全編が手話で字幕なし。それなのに完璧にストーリーが伝わる。感情の高ぶりと比例して激しくなる手話の動きは、まるでアクション映画のようだ。いや、むしろ前衛的なダンス・パフォーマンスと呼ぶべきか。聴覚障害者を扱った映画は過去にもあったが、それらの多くは困難に負けず懸命に生きていく美談が多かった。しかし本作は、悪意や憎しみ、暴力が満ちあふれるハードな青春バイオレンス映画なのだから驚く。一見純朴そうなルックスのセルゲイが、何の抵抗もなく凶悪犯罪に加わる様はすでに殺伐としているが、売春に加担するアナと関係を持ってもイタリア行を夢見る彼女から拒絶されるなど、恋愛にも救いは見られない。こんなギスギスした空気と閉塞感の中でサバイバルするセルゲイの壮絶な青春に、目が釘づけになる。長回しを多用する映像は、静謐で緊張感にあふれているが、声はなくても“音”は雄弁だ。殴り合いの衝撃音、激しい手話で風を切るような音、苦痛で漏れるうめき声、重ねた肉体がきしむ音。何もかもが鮮烈な演出だ。ラスト、狂おしい思いからセルゲイが下した衝撃的な決断に思わず凍りつく。暴力と性の闇を、手話というボディ・ランゲージで見事にドラマ化した傑作。トンデモなく強烈な映画である。
【80点】
(原題「THE TRIBE」)
(ウクライナ/ミロスラヴ・スラボシュピツキー監督/グリゴリー・フェセンコ、ヤナ・ノヴィコヴァ、ロザ・バビィ、他)
(オリジナリティー度:★★★★☆)
チケットぴあ

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ザ・トライブ@ぴあ映画生活