2015年6月11日木曜日

あん

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


あん オフィシャルブック (キネマ旬報ムック)
(ショートバージョン)
どら焼き屋の雇われ店長をしている前科者の千太郎は、求人募集の張り紙を見てその店で働きたいと熱心に頼む徳江という老女を雇う。徳江の作る粒あんの美味しさが評判になり、店はたちまち行列ができるほど繁盛する。だが徳江がかつてハンセン病を患っていたことが近所に知れ渡り、客足がぷっつりと途絶えてしまう…。

原作は詩人、作家、ミュージシャンと多方面で活躍するドリアン助川の同名小説。今までオリジナル脚本にこだわってきた河瀬直美監督だが、はじめての原作ものは、どこか肩の力が抜けた演出の好編に仕上がった。好編といっても、描かれるテーマは、偏見や差別、無知や無理解と、かなり重い。だが決して声高に主張せず、一般の人々が持つ偏見を否定も肯定もせずに描く演出が、とても効果的だ。樹木希林が名女優なのはわかってはいるが、それにしても彼女があんを作るシーンには見惚れてしまうほど。愛情を込めて煮詰める小豆の香りが漂ってきそうだ。徳江が言う「私達はこの世を見るために、聞くために生まれてきた。だとすれば、何かになれなくても、私達には生きる意味がある」との言葉は、いわれない偏見にさらされながらも尊厳をもって生きた老女の凛とした思いが伝わってくる。共演の永瀬正敏も素晴らしく、この人は年を重ねて、本当にいい俳優になった。柔らかい光をとらえた映像や、出演者の静かなたたずまいの演技が心に残るが、何よりも、差別のない社会を!と願わずにはいられない。
【65点】
(原題「あん」)
(日本・仏・独/河瀬直美監督/樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、他)
(柔和度:★★★★☆)
チケットぴあ

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