source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
バイオレンス映画の巨匠サム・ペキンパーは、1961年「荒野のガンマン」でデビューし、1984年に脳卒中でこの世を去った。彼の生い立ちや映画業界でのトラブル、独特な演出法などのエピソードを、実の妹や、ゆかりの人々、出演した俳優らのインタビューから紐解き、映画界の異才・ペキンパーの破天荒な生き様に迫っていく…。
「ワイルドバンチ」「わらの犬」「ゲッタウェイ」「ガルシアの首」「戦争のはらわた」などの傑作を作った監督サム・ペキンパーのドキュメンタリー映画「サム・ペキンパー 情熱と美学」は、映画史家で製作者でもあるマイク・シーゲルが私財をつぎ込んで作った渾身の作だ。映画全体を覆うのは、ペキンパーに深く傾倒するシーゲルの熱い思いである。厳格な家庭に育ったペキンパーは、映画監督としては妥協を許さない完璧主義者。おかげで商業主義のスタジオやプロデューサーらとたびたび衝突し、時には何年も仕事を干されたこともある。だが、主義を曲げず、豪放な演出を施すペキンパーを慕う映画人は多かったのだ。ペキンパーに関しては多くの著書もあるし、今ではDVDの特典映像などでも撮影秘話などは垣間見ることができる。映画監督のドキュメンタリーとしては極めてオーソドックスな作りで、目新しさは少ない。それでも、美しく壮絶なスローモーションで“血まみれのサム”の異名をとった代表作「ワイルドバンチ」の撮影風景や、ジェームス・コバーン、クリス・クリストファーソンら、ペキンパーに愛された常連俳優たちのインタビューは興味深い。欲を言えば“俳優”として「ビリー・ザ・キッド 21才の生涯」に出演したボブ・ディランのインタビューが欲しかったところか。暴力の中に美学を見出したサム・ペキンパーを知らない世代に、ペキンパー映画を観るきっかけになってほしい。
【55点】
(原題「PASSION & POETRY: THE BALLAD OF SAM PECKINPAH」)
(ドイツ/マイク・シーゲル監督/アーネスト・ボーグナイン、ジェームス・コバーン、クリス・クリストファーソン、他)
(豪快度:★★★★☆)