source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
先日、試写と試写の間がポコッと空いてしまったので、ふと思いついてアニメーション映画「屍者の帝国」を見ました。物語の舞台は19世紀末のイギリス。死体蘇生技術により、死人を新たな労働力として利用していたロンドンで、優秀な医学生ジョンが政府の諜報機関の一員に加わり、アフガニスタンに屍者の王国を作り上げた男の動向調査を請け負って、調査することになる…というお話。
アニメーションは「進撃の巨人」のアニメスタジオが手掛け、ヒト型ロボットとの生活を描いた映画「ハル」の牧原亮太郎が監督を務めています。
ちなみに私、予備知識ほとんどなし、原作未読、完全な一見さんだったんですが、これが意外にも楽しめました。時代は過去だけどSFに近い設定。最初は、死体蘇生で「フランケンシュタイン」や「ゾンビ」映画みたいな感じ? 次にいきなりスパイものに?! 未開の地に自分の王国を作ったって「地獄の黙示録」的な?? 偉人や有名なキャラクターの名前を持つ登場人物たちも面白い。主人公(ワトソン)と屍者の相棒(フライデー)の間にうっすらと流れるBL的気配…。もう、何でもありの寄せ鍋的な面白さと言ったらいいかな~(笑)。
原作は、伊藤計劃の小説。早世した彼の未完の遺稿を、親友で芥川賞作家の円城塔が引き継ぎ完成させたとのこと。映画化にあたり長い原作をすべて映像化するのは無理と判断して、映画独自の世界を作り上げているのだそうです。ネタバレを避けるために結末は明かしませんが、ホラーとスパイアクションをミックスさせたエンタテインメントの形を取りながら、根っこの部分には、魂とは何か、人間の意志や記憶とは、という哲学邸なテーマが隠されているようです。しかもエンドロールの後には、意味深なワン・シークエンスが!これの意味を知るためにも、原作を読むべきなのかも。思いがけず、不思議なアニメに巡りあいました。
(出演:(声)細谷佳正、村瀬歩、楠大典、他)