source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
アメリカ・ロサンゼルスでブティックを営みながら暮らす82歳の未亡人マリア・アルトマン。彼女は、グスタフ・クリムトが描いた“オーストリアのモナリザ”と呼ばれる名画「黄金のアデーレ」の返還を求め、駆け出し弁護士ランディの助けを借りて、オーストリア政府相手に訴訟を起こす。マリアは、叔母アデーレを描いたこの名画を取り戻す法廷闘争を戦いながら、ナチスに翻弄された自分自身の運命を振り返っていた…。
クリムトの名画にまつわる実話を映画化した「黄金のアデーレ 名画の帰還」は、ナチスによってすべてを奪われた女性が、オーストリア政府を相手に訴訟を起こすという驚きの実話だ。世界で最も有名な絵画の一つにこんな劇的な歴史秘話があったとは。過去の物語は、ナチスの迫害を逃れ命からがら祖国から脱出した裕福なユダヤ系一族出身のマリアが、両親を置き去りにせざるを得なかった深い悔恨に満ちた悲しい歴史だ。一方、現代の物語は、ナチスによって奪われた個人所有の絵画「黄金のアデーレ」を国の宝として、正当な持ち主マリアに返そうとしないオーストリア政府とのガチな法廷闘争である。ここには、どこか頼りない新米弁護士のランディの成長物語も描かれる。ランディは、自分とルーツが同じで縁があったマリアの裁判に携わることで、仕事への情熱と誠意に目覚め、一見勝ち目のない裁判にも知恵と勇気で立ち向かう一人前の弁護士へと変わっていくのだ。過去と現代と結びつけるこの構成が巧みで、祖母と孫ほどに年が離れているマリアとランディの凸凹コンビを、思わず応援したくなるだろう。コスメのエスティ・ローダーの会長ロナルド・ローダーとマリアがどういう経緯で知り合ったのかが少し分かりにくいが、「誰もが鑑賞できるよう、常時展示すること」を条件に、「黄金のアデーレ」こと「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I」は、ローダーが高額で買い取り、現在、NYのノイエ・ガレリエに所蔵されている。今まで避けてきた悲痛な過去に向き合いながら、裁判を戦い抜くマリアの姿は、実にりりしい。シリアスな中にも、そこはかとないユーモアを感じさせる演技は、さすがは名女優ヘレン・ミレンである。
【70点】
(原題「WOMAN IN GOLD」)
(米・英/サイモン・カーティス監督/ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール、他)
・黄金のアデーレ 名画の帰還@ぴあ映画生活