source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック
※2011年パリで開催されたキューブリック展に展示された『博士…』の核爆弾のレプリカの横に立つケン・アダム。
ケン・アダム氏(英映画美術監督)10日、ロンドンの自宅で死去、95歳。英BBC放送が11日、報じた。
ベルリンのユダヤ人家庭に生まれ、ナチス・ドイツの迫害を逃れ家族で英国に移住。第2次大戦中は英空軍に所属した。スパイ映画シリーズ「007」で、敵役の精巧なアジトやボンドカーの緊急脱出シートをデザイン。「英国万歳!」「バリー・リンドン」の2作品でアカデミー賞の美術賞を受賞した。
過去に「007」で主役のジェームズ・ボンドを演じた英俳優ロジャー・ムーアさんは、ツイッターで「友であり、ジェームズ・ボンド映画のスタイルを確立した男」と追悼した。(ロンドンAFP=時事)。
(引用:時事通信ドットコム/2016年3月12日)
ケン・アダムといえば007シリーズのプロダクション・デザイナーとして有名ですが、キューブリック作品では『博士…』の最高作戦室のセットが特に有名で、海外の追悼記事はそれに触れた記事が多いようです。でも、ケンがアカデミー美術賞を受賞したのは『バリー…』でした。なのでここでは『バリー…』でのケンの仕事ぶりをご紹介します。
キューブリックが『バリー…』でケンに求めたのは「撮影は全てロケ。尚ロケ地は自宅から90分以内」という無茶振りでした。キューブリックにしてみれば「18世紀の古色蒼然とした雰囲気はセットでは再現不可能」という判断からですが、さすがに自宅から90分以内で全て賄うのは無理。ケンはキューブリックをなんとか解き伏せてアイルランドまでロケツアーを敢行することに。
いざ遠方ロケという判断なると、キューブリックはそのこだわり主義と出不精を遺憾なく発揮。ありとあらゆるロケ候補地の写真を撮らせてきてはそれを詳細に検討、ロケのための遠征を最小限でなおかつ最大限有効な撮影ができるよう、ケンを始めスタッフに「砂漠のロンメル将軍」のようにミニバスで現地を走り回らせるのでした。
映画で使われたトランプやバスタブなどの小道具はケンの手によるものですが、ケンは時代考証から得られた知識で創作するのを望んだのに対し、キューブリックは絵画から正確に複製するのを希望、これはこの作品でのケンの役割は創作能力を発揮できるプロダクションデザインではなく、現存しない小道具の正確なレプリカ製作であったことを如実に物語っています。
これだけでも大概なですが、さらにキューブリックはある日突然「後ろに山がある草原と川を探してこい。それにそこを飛び越える騎兵隊が欲しい」とケンに要求。さすがのケンもこれらキューブリックのプレッシャーに耐えかね、片時も精神安定剤が手放せなかったそうです。
その甲斐あってかケンは『バリー…』でアカデミー美術賞を受賞。なおかつ95歳まで生きたのですから大往生と言えるでしょうね。
故人のご冥福をお祈りいたします。