source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
老境の作家と、自分のことを“あたい”と呼び、丸いお尻と愛嬌のある顔をした少女・赤子は、共に暮らしながら、少しエロティックなおしゃべりをして過ごしている。作家を“おじさま”と呼ぶ赤子の正体は、実は真っ赤な金魚だった。そこに、老作家への愛を募らせて蘇った女・ゆり子の幽霊が現れて、奇妙な三角関係に陥るが…。
昭和の文豪・室生犀星の晩年の小説を映画化した「蜜のあわれ」は、大人のファンタジーだ。室生犀星にこんな前衛的で幻想的な作品があったことを初めて知った。映画は、金魚の少女を、二階堂ふみが演じたことで“勝ったも同然”で、犀星自身を投影している作家を無邪気に翻弄する小悪魔ぶりがあまりにハマッている。老いた知識人の願望は、つまるところ、こういう変幻自在の女性のエロティシズムなのだろうか。金魚の少女はもとより、美しい女幽霊や、盟友で天才作家・芥川龍之介の幽霊、すべてを知り事態を見守る金魚売りの男と、登場するキャラクターのすべては老作家の分身に違いない。大正ロマンをかきたてられる美術が繊細で美しく、北陸でロケした映像もまた幻想的だ。さらに、いかにも映画的なのは、ミュージカル要素が入っていること。畳の和室で、コケティッシュなダンスを踊るシークエンスは、レトロモダンで、妙な色気があったりする。明確なストーリーはなくラストも唐突だが、幻想的な文芸ロマンの世界に遊んでみるのも悪くない。
昭和の文豪・室生犀星の晩年の小説を映画化した「蜜のあわれ」は、大人のファンタジーだ。室生犀星にこんな前衛的で幻想的な作品があったことを初めて知った。映画は、金魚の少女を、二階堂ふみが演じたことで“勝ったも同然”で、犀星自身を投影している作家を無邪気に翻弄する小悪魔ぶりがあまりにハマッている。老いた知識人の願望は、つまるところ、こういう変幻自在の女性のエロティシズムなのだろうか。金魚の少女はもとより、美しい女幽霊や、盟友で天才作家・芥川龍之介の幽霊、すべてを知り事態を見守る金魚売りの男と、登場するキャラクターのすべては老作家の分身に違いない。大正ロマンをかきたてられる美術が繊細で美しく、北陸でロケした映像もまた幻想的だ。さらに、いかにも映画的なのは、ミュージカル要素が入っていること。畳の和室で、コケティッシュなダンスを踊るシークエンスは、レトロモダンで、妙な色気があったりする。明確なストーリーはなくラストも唐突だが、幻想的な文芸ロマンの世界に遊んでみるのも悪くない。
【60点】
(原題「蜜のあわれ」)
(日本/石井岳龍監督/二階堂ふみ、大杉漣、真木よう子、他)