source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
中世のスコットランド。慈悲深いダンカン王に仕える将軍マクベスは、反乱軍との戦いに勝利した帰りに、荒野で3人の魔女に出会う。「お前は領主になり、王になるだろう」と予言され驚くが、その直後に、コーダーの領主が死亡し、マクベスが領主に任命される。マクベス夫人は夫を王にするべく、ダンカン王暗殺を執拗にけしかける。王位への欲望に負けたマクベスはダンカン王を殺害し、ついに王となるが、罪悪感と不安から、やがて狂気へと陥っていく…。
シェークスピアの四大悲劇の一つである戯曲を映画化した「マクベス」。物語は有名なので、王位に取りつかれた主人公マクベスが悲劇的な運命をたどることを多くの観客はすでに知っている。舞台、オペラはもとより、過去には、オーソン・ウェルズやロマン・ポランスキーが映画化し、日本ではあの黒澤明監督が「蜘蛛巣城」として映画化していることでも有名だ。一般的には悪女マクベス夫人にそそのかされて王位を奪ったマクベスの狂気と転落を描くのがオーソドックスな演出だが、本作の個性は、罪の意識と狂気に苛まされながらも、深く愛し合っているマクベス夫妻の絆を強調したことにある。我が子を亡くした悲しみから立ち直れないマクベス夫人は、ここでは単なる悪女ではない。マクベスもまた、子を亡くした悲しみをぶつけるように戦場で果敢に戦うが、戦場では泥まみれになって顔の識別さえ難しい姿で描かれる。そのことでマクベスは匿名性をおび、この映画のキャッチコピーでもある「あなたの心の中にもマクベスがいる」という言葉に説得力を持たせているのだ。映画の多くが野外で撮影されていて、映像は常に薄暗く不穏。それに対比するかのように、室内のろうそくの炎のゆらめきの中にいる、マリオン・コティヤール演じるマクベス夫人の美しさが際立った。やがてくる破滅の時を、マクベスは実は待っているのではないか。狂気と絶望で死にいたった夫人と再会するのを願うかのように。ラスト、真っ赤に燃え上がる荒野に、破滅へと向かうしかなかった男女の運命が重なっている。
【60点】
(原題「MACBETH」)
(英・米・仏/ジャスティン・カーゼル監督/マイケル・ファスベンダー、マリオン・コティヤール、パディ・コンシダイン、他)
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