2017年11月10日金曜日

【ブログ記事】キューブリックの字幕や吹替に対するスタンスを検証する

source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック









セリフや声優のキャスティングなど様々な意見はあるかと思いますが、管理人個人としてはリリースしてくれたことに価値があると思っていますので、評価は避けたいと思います。



 幻とされていた『フルメタル・ジャケット』の日本語吹替版BDがリリースされ、話題になっています。この吹替版はTV放映用ではなく、吹替版として劇場公開を予定していたものです。『フルメタル…』の日本公開は1988年3月ですが、ちょうどその頃のキューブリックのインタビューがありましたので、ここに一部抜粋して引用してみたいと思います。

 (外国語版は)できる限り最高のメンバーに依頼する。ダビング(吹替)版なら、最高のライター、最高の監督に、最高の俳優。スペイン語版でカルロス・サウラに頼んだこともあるよ。スーパーインポーズ(字幕)版、私はこの方が良いのだが、ダビング(吹替)版主体の国が多いのが現状だ。興行者が主張するから仕方なく作ってはいるが。スーパーインポーズ(字幕)版では、英語の話せる優秀な翻訳者に頼むのが第一。今、ドイツ語版では優秀な翻訳者がいる。ジャーナリストだが。日本ではスーパー主体だね。

〈インタビュアーの『フルメタル…』の日本語字幕の批評なので中略〉

 なにしろ日本語のシンタグム(構文法)は、我々(欧米人)には普通じゃない。


(引用先:イメージフォーラム1988年6月号/スタンリー・キューブリック・ロングインタビュー


 以上のように、キューブリックは外国語版にもチェックを怠らなかったのですが、ポイントは2つ。

(1)キューブリックは吹替版より字幕版を好んでいた

(2)字幕であれ、吹き替えであれ優秀な翻訳者にオファーする

となるでしょう。

(1)は吹替が当たり前のアメリカ生まれ、アメリカ育ちのキューブリックにしては意外な感じもしますが、それだけセリフに込めた意味を重要視していたのでしょう。

(2)は、コントロールフリーク(原田氏談)のキューブリックらしいこだわりで、自分が認めた優秀な人材であれば専門の翻訳家でなく、映画監督でもジャーナリストでも構わない、ということでしょう。つまり専門家の「誤訳の女王」はキューブリックのお眼鏡には叶わなかったんですね(笑。

 キューブリックの人材登用の特徴は、優秀でれば専門外の人材でも積極的に採用する点です。役者でさえ素人(『2001年…』の地上管制官、『シャイニング』のバスルームの美女など)を採用するくらいです。脚本も専門の脚本家に頼まず、小説家(もしくは小説家兼脚本家)にオファーするのが常でした。理由は「専門家の手慣れた仕事(手抜き)を嫌がった」「素人の新鮮なアイデアに期待した」などいろいろ考えられますが、どちらにしてもその「素人」がそれ相応の才能や技能を持っていないと相手にしなかったようです。そうやって冷徹に人を切り捨てる態度に立腹した俳優やスタッフも数多く。そのことが数多くの敵と、誤解や偏見を生む土壌になったと言えるでしょう。

 キューブリック逝去後の『アイズ…』公開時の字幕は、『フルメタル…』でNGを出されたはずの戸田氏が担当しました。キューブリックが存命なら、かなりの高確率で原田氏にオファーしたでしょう。ワーナーの気の利かなさっぷりはあいかわらずですが、結局戸田氏は最後の重要なセリフ「Fuck」を「セックスよ」と単純に訳してしまいました。現在のDVDやBDはレオン・ヴィタリの監修のもと「ファックよ」に修正されています。そんな戸田氏は『アイズ…』でクルーズとキッドマンが来日した際、二人の間に割って入ってニコニコとカメラマンのフラッシュを浴びておりました(怒。

 「使えない奴に限って目立ちたがり屋」みなさんの周りにもほら、心当たりがありませんか?(笑。