source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック
作品中のあちこちに登場するクリスマスツリー
英i-Dが、クリスマスに親や年配の親戚と一緒に見るのは避けるべき映画5作品を発表した。
〈中略〉
「アイズ ワイド シャット」
巨匠スタンリー・キューブリックの遺作。ある夫婦の愛と性をめぐる心の葛藤を冷徹に映し出したドラマで、妻の性的妄想を叶えるために夫妻で仮装乱交パーティに参加する。当時私生活でも夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマンが主人公の倦怠期カップル役で共演した。
〈以下略〉
(全文はリンク先へ:映画.com/2018年12月18日)
ちょっと待った!「妻の性的妄想を叶えるために夫妻で仮装乱交パーティに参加する」って間違っていますよ。「妻の性的妄想への嫉妬心から独断で仮装乱交パーティに潜入する」が正しいです。まあ、それはともかく舞台はクリスマス時期のニューヨーク、主演はトム・クルーズとニコール・キッドマンですので、それだけ聞けばいわゆる「クリスマス映画」と言えますが、内容はこの通り全くファミリー向けではありません。
原作小説『夢奇譚』の舞台はウィーンで、時期はクリスマスではありませんが、キューブリックが映画化の際に時期をクリスマスに設定しました。理由は「クリスマス飾りの照明が物語の怪しい雰囲気に合致するから」や、「夜のシーンが多くなるので、自然光照明の光源を自然な形で用意したかったから」「パーティーというシチュエーションを自然に思わせるにはクリスマスが最適だから」などが考えられます。キューブリックは映像の完成度を最優先させて物語を改変することが多々あるので、おそらくこういった理由ではなかったかと考えています。
ちなみにキューブリックはユダヤ人ですが、自宅でクリスマスパーティーを開いたり、クリスマスプレゼントを贈ったりするなど、ユダヤ教には無関心でした。ただ、ユダヤ人であることであらぬ差別や誹謗中傷を受けていたのも事実で、それは『アイズ…』の脚本を担当したフレデリック・ラファエル(この人もユダヤ人)の著書『アイズ・ワイド・オープン』に記述があります。また『スパルタカス』の頃は「あのユダヤ野郎!」などと露骨に嫌悪されていたそうです。
原作小説『夢奇譚』の作者であるアルトゥル・シュニッツラーも、その小説の主人公も、脚本家も、映画監督もユダヤ人の『アイズ…』ですが、キューブリックは映画化に際してその「ユダヤ人臭」の徹底排除をラファエルに指示しています。クリスマスという時期を選んだもの、それを消し去る最適の舞台装置であると判断したのかも知れませんね。