source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック
会場のエジプシアン・シアター。赤いマントを着た人も。
登壇したレオン・ヴィタリ。手にしているのは映写技師への指示書。
私の後ろの席は全て埋まっていたので300人以上入っていたと思います。会場にはマスクとマントを着たファンが数人いました(笑。さらに劇場の係員もマスクをつけていて面白かったです。まず最初にレオン氏が登壇。約15分ほど『アイズ…』について話されました。写真で彼が持っている紙はA4ほどのサイズで、ページ全体に映写技師への彼の指示が書かれているとのことです。以下はレオンの発言で興味深かったところを抜粋したものです。
「ハーヴェイ・カイテルは最初の3シーンを撮影していたが、契約があったため、帰らないといけなくなった。それでシドニーを起用した。それが功を奏した。なぜなら、ハーヴェイはインチキ臭く、怪しい奴であるという雰囲気があるが、シドニーにはそれがない。どこにでもいそうな男だが、全てはバックグラウンドで起こっているから」
「私たちはこの撮影を〈ミッション・インポッシブル〉と呼んでいた(笑」
「シドニーがキューブリックの死後「あの撮影では学生映画の撮影ほどのクルーしかいなかったことは驚きに値する」と言っていた」
「私は赤マントの男だけでなく、豪邸にいるあらゆる人物を演じた。500人のマスクの人たちの中の一人、玄関でビルを迎える男、バルコニーにいる男、階上でおっぱい丸出しの女性と一緒にいる男。奇妙なことだった(笑。キューブリックに言われるがままだった。「レオン、マントをつけろ」と(笑」
「キューブリックはクリスマス映画は好きではなかった」
「(最後に)ところで、この映画は異端審問やどのカルト宗教とも関係がありません。本当に」
最初の数分はかなりフィルムが傷ついていて、汚れて見えましたが、途中からそれもなくなりザラザラした質感とクリアな映像に圧倒されました。やはり大画面で見る35mmフィルムの映画は違いました。特に赤マントの男の儀式のシーンの迫力は凄かったです。大音量で響き渡る不気味な音楽と男の持つ杖が床を打つ音。それに合わせて男たちの元へと向かう女性たち。まるで異次元、ファンタジーの世界にいるような気分にさせてくれました。最近はPCの小さな画面で映画を見ることが多かったのですが、これには圧倒されました。やはりキューブリックはすごい。映画の力はすごい。そう思いました。
もちろん儀式のシーンや乱交のシーンだけでなく、あらゆるシーンが息を飲む瞬間の連続でした。例えばジーグラーが「私もそこにいた」と衝撃の告白をするシーンは劇場中がハッと静まり返りました。ファンと一緒に見る『アイズ…』は楽しかったです。アメリカ人は反応が大きくて面白いです(うるさい時もありますが)。貸衣装店の男のシーンなどはみんな笑っていました。キューブリックの映画はどれも何回見ても面白いし、新しい発見があります。全てのキャラに裏があるんですね。大画面のおかげで海兵が妻と情事をする場面を想像するシーンでは、トムと共に自分までニコール・キッドマン演じる妻を寝取られた気分になり、苦悩しました(笑。豪邸に赴き手紙を受け取るシーンも最高です。ニック・ネイチンゲールは果たして妻子の元へ帰れたのか。それとも殺されたのか。とても心配になりました。トムを尾行する男も大画面で見ると怖かったです。映画の最後、エンドクレジットにレオン氏の名前が出たところで、私も含めてみんなが拍手喝采するという微笑ましい場面がありました。結論、やはりキューブリックは偉大です。キューブリック万歳。
2019年12月21日(土)の午後7時30分から、ハリウッドのエジプシアン・シアターで開催された『アイズ ワイド シャット』公開20周年記念35mm上映イベントの素晴らしいレポートが、ロサンゼルス在住のShinさまより届きました。当日は特別ゲストとしてレオン・ヴィタリが登壇し、その質疑応答もレポしていただきました。
日本でフィルム上映できる施設はもうほとんど残っていないでしょうし、こういったイベントができるアメリカはやはり映画が生活に根ざしているんだな、と痛感させられます。レポートにはありませんが、今回の上映は乱交シーンを修正したバージョン(日本ではオリジナルバージョンが上映された)だったそうです。
キューブリックが少数精鋭で映画制作をしていたことはよく知られていますが、逆に言えば細かく分業制が確立しているハリウッドが人が多すぎるのだと思います。レオンのような「何でも屋」なんてハリウッドでは考えられないでしょう。それはキューブリックの信任がいかに厚かったのかの証左でもあると思います。それに全身全霊で応えたレオンの姿はドキュメンタリー映画『キューブリックに魅せられた男』で描かれていた通りです。
キューブリックはクリスマス映画は好きではなかったというのは、なんとなくわかるような気がします。常に普遍的なテーマを追求していたキューブリックがシーズンイベントを狙った映画なんて作ろうとは思わないでしょう。なのに『アイズ…』ではクリスマスシーズンが舞台に選ばれました。その理由は、夜のシーンが多くなるので自然光照明の光源としてクリスマスイルミネーションを使いたかった、クリスマスの妖しい雰囲気が作品の雰囲気とマッチしていた、パーティーが自然に行われている時期としてクリスマスシーズンが最適だった、などの理由があったと考えています。
この作品をリアルタイムでご覧になった方はご存知だと思いますが、例のイルミナティやらフリーメイソンなどの「陰謀論」は上映時には全く話題になっていなかったのはご記憶だと思います。これらが話題になり始めたのは、2003年にフランスのTV局が制作したジョーク番組『オペレーション・ルーン』が話題になってからで、それに目をつけたプロデューサーが「これは金になる」と『Room 273』(これは元々は『シャイニング』をダシに陰謀論で遊ぶホームページが元になっている。当時はDVDのリリース前だったので、『シャイニング』のビデオを逆再生すると謎のメッセージが聞こえてきた!などとやっていた)を制作、これも話題になり「次のドジョウはいないか?」と目をつけられたのが『アイズ…』という時系列です。レオンもいいかげん辟易としているんでしょう、毎回のようにこの「陰謀論の否定」をせざるを得ない状況のようです。
まあそんな雑音はともかく、日本でもぜひこの35mmフィルムを輸入して上映イベントを開催してほしいものです。可能性としては国立映画アーカイブさんが一番高いですが・・・この企画、いかがでしょうか?
最後になりましたが、Shinさん、素敵なレポートをありがとうございました!
写真提供・レポート:LA在住 Shin様