source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
チェチェンを舞台に声を失くした少年とEU職員との交流を描くヒューマンドラマ「あの日の声を探して」。手持ちカメラの粗い映像が殺伐とした戦争のリアルな狂気を体感させる。
1999年。ロシアに侵攻されるチェチェン。両親を殺されたショックで声を失った9歳の少年ハジは、放浪しながらようやく街に辿りつく。フランスから調査に来たEU職員のキャロルは、偶然ハジをみかけ保護する。一方で、音楽好きな青年コーリャはロシア軍に強制入隊させられ、常軌を逸した軍生活で次第に人間性を失っていく…。
この映画の原案となったのはフレッド・ジンネマン監督の「山河遥かなり」だが、中身は別物と思った方がいい。物語は、両親を殺され声を失った少年、周囲の無関心や無力な自分に絶望するEU職員、そして軍生活の中で人間性を失う青年という3つの視点から描かれる。「アーティスト」のミシェル・アザナヴィシウス監督は、チェチェン紛争に関する国際社会の無関心を描きたかったそうだ。実際に廃墟が広がるグルジアでオールロケを行い、ほぼ全編が手持ちカメラで撮影された映像は、見る者を紛争地帯へと強引に導いていくかのよう。混沌とした戦争では、善意を持った人間の行動がまったく機能せず、絶望的な現実だけがそこにある。そんな状況では、人は目の前の命を救うことしかできないのだ。キャロルとハジの交流には時に温かい空気が感じられるが、アザナヴィシウス監督は、戦争の狂気にからめとられ人の心を失っていく青年コーリャのエピソードに大きな時間を割き、戦争がいかにして人をモンスターへと変えていくのかを切々と訴えた。ハジは廃墟から希望へと導かれ、コーリャは廃墟からさらなる破壊へと向かう。ザラつく画面が、戦争の悲劇は今も続いていると語っているようだった。ハジを演じるのは演技初体験の少年アブドゥル・カリム。自然な演技とピュアな瞳に胸を打たれる。
1999年。ロシアに侵攻されるチェチェン。両親を殺されたショックで声を失った9歳の少年ハジは、放浪しながらようやく街に辿りつく。フランスから調査に来たEU職員のキャロルは、偶然ハジをみかけ保護する。一方で、音楽好きな青年コーリャはロシア軍に強制入隊させられ、常軌を逸した軍生活で次第に人間性を失っていく…。
この映画の原案となったのはフレッド・ジンネマン監督の「山河遥かなり」だが、中身は別物と思った方がいい。物語は、両親を殺され声を失った少年、周囲の無関心や無力な自分に絶望するEU職員、そして軍生活の中で人間性を失う青年という3つの視点から描かれる。「アーティスト」のミシェル・アザナヴィシウス監督は、チェチェン紛争に関する国際社会の無関心を描きたかったそうだ。実際に廃墟が広がるグルジアでオールロケを行い、ほぼ全編が手持ちカメラで撮影された映像は、見る者を紛争地帯へと強引に導いていくかのよう。混沌とした戦争では、善意を持った人間の行動がまったく機能せず、絶望的な現実だけがそこにある。そんな状況では、人は目の前の命を救うことしかできないのだ。キャロルとハジの交流には時に温かい空気が感じられるが、アザナヴィシウス監督は、戦争の狂気にからめとられ人の心を失っていく青年コーリャのエピソードに大きな時間を割き、戦争がいかにして人をモンスターへと変えていくのかを切々と訴えた。ハジは廃墟から希望へと導かれ、コーリャは廃墟からさらなる破壊へと向かう。ザラつく画面が、戦争の悲劇は今も続いていると語っているようだった。ハジを演じるのは演技初体験の少年アブドゥル・カリム。自然な演技とピュアな瞳に胸を打たれる。
【65点】
(原題「THE SEARCH」)
(仏・グルジア/ミシェル・アザナヴィシウス監督/ベレニス・ベジョ、アネット・ベニング、マクシム・エメリヤノフ、他)
・あの日の声を探して@ぴあ映画生活