2015年7月7日火曜日

雪の轍

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


WINTER SLEEP
(ショートバージョン)
美しい世界遺産の街トルコ・カッパドキア。ホテル・オセロのオーナーで元俳優のアイドゥンは、親の遺産を受け継ぎ、若く美しい妻ニハルと、離婚して実家に戻った実妹のネジラとともに、裕福に暮らしている。しかし妻との間はうまくいっておらず、妹との関係もぎくしゃくしていた。ある日、アイドゥンへの家賃を滞納する一家との不和が引き金で、それぞれの内面の不満があらわになっていく…。

トルコ映画「雪の轍(わだち)」は3時間16分の大作である。2014年のカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞作だが、過去受賞作の中で最長だそうだ。物語は大きな事件は起こらず、ベルイマンを彷彿とさせる異様なまでに辛辣な会話が延々と続いていく。人間の葛藤とは、このようにいつ終わるとも知れない、果てしないものだと言わんばかりに。アイドゥンは親の遺産で裕福に暮らしながら、さっぱり完成しないトルコ演劇史を執筆したり、地方紙に小さなコラムを書いたりしているが、倫理や良心について語りながらさしたる行動力もない、いわば逃避者だ。妻ニハルは働きもせず夫の資産で慈善活動に精を出し、妹は何かと議論をふっかけては舌戦に持ち込む。富裕層のえせインテリによる空虚な議論は、話せば話すほど溝が深まる始末だ。ある意味、先読み不能な物語だが、くどくどと理屈をこねて自らの脆さをあらわにする小さき人間と、数億年前に形作られた奇岩の風景が広がるカッパドキアの自然の広大な空間が、圧倒的な対比を成している。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の作品が、日本で初めて見られる喜びをかみしめた196分だった
【65点】
(原題「KIS UYKUSU/WINTER SLEEP」)
(トルコ・仏・独/ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督/ハルク・ビルギナー、メリッサ・スーゼン、デメット・アクバッグ、他)
(辛辣度:★★★★★)
チケットぴあ

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雪の轍(わだち)@ぴあ映画生活