2015年10月22日木曜日

ヒトラー暗殺、13分の誤算

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評




1939年11月8日、ミュンヘンで恒例の記念演説を行っていたヒトラーは、いつもより早く演説を切り上げた。ヒトラーが退席した13分後、会場で爆弾が爆発。綿密な計画と爆弾の精度から、秘密警察ゲシュタポは、英諜報部の関与を疑うが、逮捕されたのは、36歳の家具職人ゲオルク・エルザーだった。単独犯のエルザーに興味を持ったヒトラーは彼を拘束して拷問を命じ、過去を徹底的に調べ上げる…。

アドルフ・ヒトラー暗殺未遂事件を映画化した「ヒトラー暗殺、13分の誤算」は、単独でヒトラー暗殺を企てた男の人生と彼を生かし続けたドイツの思惑を描く歴史秘話だ。ヒトラーは40回近い数の暗殺計画をくぐり抜けた強運の持ち主として知られるが、映画は、特別な地位も政治的信念もない青年が、なぜヒトラー暗殺計画を練り、成功の一歩手前までいったのかを描いていく。特に、捕われた後の彼の運命は、歴史秘話として興味深い。逮捕後、尋問される日々と、過去の人生を交錯させながら描く構成がまず巧みだ。過去はまるで青春映画のようなみずみずしさにあふれていて、エルガーという無名の青年が、いち早くナチスによる不穏な靴音を感じ取ったのは、彼が何より人生の素晴らしさを謳歌していたためだと感じさせる。ドイツ人としての誇り、生きることの喜びを、ナチスは奪い取ることを、エルガーはいち早く感じ取ったからこそ、たった一人で革命を起こそうとしたのだ。そこには所属する政党や高尚な理想はなく、まして誰かに洗脳されたわけでもない。勢いのある政権におもねり、扇動にのって動く大衆心理とは対極にある、イデオロギーから離れた個人の勇気。そこにこの作品の素晴らしさがある。オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督は「es(エス)」や「ヒトラー 最期の12日間」など秀作がある一方で、「インベージョン」や「ダイアナ」など、思わず首をかしげたくなる凡作もあって、作風がよくわからないが、やはり母国ドイツでの仕事で光る人のようだ。
【70点】
(原題「13MINUTES/ELSER」)
(ドイツ/オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督/クリスティアン・フリーデル、カタリーナ・シュットラー、ブルクハルト・クラウスナー、他)
(歴史秘話度:★★★★☆)
チケットぴあ

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