source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
ベルリンに暮らす10歳のジャックは、毎日、6歳の弟マヌエルの世話で忙しい。シングルマザーの母親は、子どもたちを愛してはいるが、自分の恋愛や夜遊びを優先して、家を空けることが多いのだ。そんなある日、ある事件をきっかけに、ジャックは施設に、マヌエルは母の友人宅に預けられてしまう。施設になじめないジャックは、ずっと待っていた夏休みに母親のお迎えがないことを知ってショックを受け、施設を飛び出してベルリンの自宅まで戻る。マヌエルと一緒に、母親を探してベルリン中を駆けまわるジャックだったが…。
身勝手な母親に翻弄される幼い兄弟の奮闘を描いて感動を呼ぶ「ぼくらの家路」は、頼りにならない大人たちの中で、少年が健気に成長する物語だ。ママは子供たちを愛しているし、一緒にいれば楽しい。それでも親としての責任能力がないのは明白で、周囲の大人たちもジャックとマヌエルの幼い兄弟をそれなりに心配してはくれるが、頼れるわけではない。ママを探して、仕事場、怪しげなナイトクラブ、ママの昔の恋人の事務所まで訪ね歩き、カフェの砂糖をかすめとって食事して廃車置き場で眠る兄弟が、たくましいやら痛々しいやら。ジャックはとてもしっかりした少年だが、まだたったの10歳。甘えたいしわがままも言いたいだろう。不安や怒りや悲しみをすべて呑み込んで「母親探し」の大役をやり遂げようと頑張る姿があまりにも健気だ。演じるイヴォ・ピッツカー君の自然体の演技がとてもいい。ラスト、ジャックが下した決断には、少年時代との早すぎる決断を見る思いがする。育児放棄にも似た悲惨な状態なのに、この物語が決して暗くないのは、都会っ子ならではのたくましさと、決してヤケにならずに、今現在の最善の道を探る生命力があるから。「がんばれ！」と心の中で何度も叫んでしまった。
【７０点】
（原題「JACK」）
（ドイツ／エドワード・ベルガー監督／イヴォ・ピッツカー、ゲオルグ・アームズ、ルイーズ・ヘイヤー、他）
