source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
大女優マリアは、有能な女性マネージャーのヴァレンティンと共に仕事に励んでいた。ある時、マリアは、自分が出演し出世作となった20年前の舞台劇のリメイクをオファーされる。だがマリアの役はかつて演じた小悪魔的な若き美女ではなく、ヒロインに振り回される中年女性の役。リメイク版の主役には、ハリウッドの新進女優ジョアンが抜擢されていた。迷ったあげく役を引き受けたマリアは、ヴァレンティンを相手に台本の読み合わせを開始するが、現実と役柄が混濁しマリアは深みにはまっていく…。
年齢を重ねた大女優が老いにおびえ焦燥する姿を描く「アクトレス 女たちの舞台」は、「クリーン」などで人間の複雑な内面を描いてきたオリヴィエ・アサイヤス監督の新作だ。俳優が新作舞台を控え、孤独と焦燥感に苛まされる…と聞くと「バードマン」を思い浮かべるが、なるほど虚実が入り混じるなど、共通項は多い。ただ、本作はスイスの山岳地帯を舞台にしているためか、不思議な開放感がある。女優の葛藤は、一般人には無縁だが、老いに対する不安は、人間、特に多くの女性は共感できるはず。マリアは、かつては人を翻弄する側だったのに、いつしか翻弄される側に。そこには残酷なまでの時の流れがある。マリアとヴァンティンが読み合わせする台本の会話は、現実と重なり、若手女優ジョアンとマリアが演じる舞台もまた現実を映す鏡のよう。二重、三重になった物語構造が、映画を深淵なものにしている。大女優を演じるビノシュの複雑な表情、若手女優を演じるモレッツの輝きと、女優陣は皆、好演だが、何と言っても達観した位置にいながら愛憎を内包するヴァレンティンを演じたクリステン・スチュワートの演技が見事に際立った。劇中に登場する、アルプスの自然現象“マローヤの蛇”とは、奇妙で美しい動きをする雲海の名称。流れるべきところを流れ、そして去っていくマローヤの蛇は、雲の中にいれば混乱してしまっても、遠くから眺めれば神秘的で美しい。主人公マリアの心情と共に、映画の大きなテーマである“時の流れ”を象徴するかのようだった。
年齢を重ねた大女優が老いにおびえ焦燥する姿を描く「アクトレス 女たちの舞台」は、「クリーン」などで人間の複雑な内面を描いてきたオリヴィエ・アサイヤス監督の新作だ。俳優が新作舞台を控え、孤独と焦燥感に苛まされる…と聞くと「バードマン」を思い浮かべるが、なるほど虚実が入り混じるなど、共通項は多い。ただ、本作はスイスの山岳地帯を舞台にしているためか、不思議な開放感がある。女優の葛藤は、一般人には無縁だが、老いに対する不安は、人間、特に多くの女性は共感できるはず。マリアは、かつては人を翻弄する側だったのに、いつしか翻弄される側に。そこには残酷なまでの時の流れがある。マリアとヴァンティンが読み合わせする台本の会話は、現実と重なり、若手女優ジョアンとマリアが演じる舞台もまた現実を映す鏡のよう。二重、三重になった物語構造が、映画を深淵なものにしている。大女優を演じるビノシュの複雑な表情、若手女優を演じるモレッツの輝きと、女優陣は皆、好演だが、何と言っても達観した位置にいながら愛憎を内包するヴァレンティンを演じたクリステン・スチュワートの演技が見事に際立った。劇中に登場する、アルプスの自然現象“マローヤの蛇”とは、奇妙で美しい動きをする雲海の名称。流れるべきところを流れ、そして去っていくマローヤの蛇は、雲の中にいれば混乱してしまっても、遠くから眺めれば神秘的で美しい。主人公マリアの心情と共に、映画の大きなテーマである“時の流れ”を象徴するかのようだった。
【70点】
(原題「SILS MARIA」)