2016年7月12日火曜日

シング・ストリート 未来へのうた

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


シング・ストリート 未来へのうた
1985年、大不況のダブリン。14歳のコナーは、父親の失業のため、公立の荒れた学校に転校させられる。学校ではイジメにあい、家に帰れば両親の離婚問題で家庭は崩壊寸前というどん底の毎日を送っているが、音楽狂の兄と一緒に隣国ロンドンのMVをテレビで見ている時だけが幸せだった。ある日、町で出会った、自称モデルの年上の美少女ラフィーナにひとめぼれしたコナーは「僕のバンドのPVに出ない?」と口走ってしまう。慌ててバンドを組んだコナーは、さっそくメンバーを集め、楽器を揃えて、猛特訓をはじめるが…。

1980年代のアイルランド・ダブリンを舞台に、14歳の少年が音楽で未来を切り開く姿を描く「シング・ストリート 未来へのうた」。監督は秀作音楽映画「ONCE ダブリンの街角で」で知られるジョン・カーニーで、監督自身の半自伝的ドラマだそうだ。好きな女の子を振り向かせるためにバンドを組んで音楽をやるというだけなら、過去にも類似作はたくさんあるが、本作はプロモーション・ビデオ(PV)を撮って音楽を映像として残そうとするところに個性がある。ミュージック・ビデオ(MV)はMTVの爆発的普及によるところが大きいが、PVを作る過程で、主人公の心の変化、未来への漠然とした不安や憧れを、映像に重ねることで、みずみずしい成長物語になっている。80年代の音楽シーンを模倣するコナーの外的・内的変化は、見ているこちらが恥ずかしくなるほどなのだが、これは青春時代を振り返る時の気恥ずかしさや甘酸っぱさと同じテイストだ。気のいいバンド仲間、実はいいヤツだったいじめっ子、抑圧的な学校への鮮やかな抵抗など、すべてが魅力的。もちろん、ダブリンの田舎に住む若者が大都会ロンドンに単純にあこがれても、そこには挫折や哀切が待っている。それでも私たちは“海を渡る”コナーたちを応援せずにはいられない。音楽オタクで引きこもり中の兄貴のセリフが、例えば「好きな女の子を他人の曲で口説くな」など、意外なほど深いので要チェックだ。シング・ストリートとは高校の名前にしてバンド名。劇中に登場する、デュランデュラン、キュアー、ホール&オーツなど、80年代のヒット曲の数々が、懐かしさを喚起する。やはりジョン・カーニー監督が作る音楽映画にハズレなし!だ。
【80点】
(原題「SING STREET」)
(アイルランド・英・米/ジョン・カーニー監督/フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、エイダン・ギレン、マリア・ドイル・ケネディ、他)
(成長物語度:★★★★★)
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