2017年2月12日日曜日

【考察・検証】『時計じかけのオレンジ』でカットされた「レイプ・ファンタジー」のシークエンスについて検証する

source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック


rapefantasy
(引用先:getty images:A scene from the movie 'A Clockwork Orange' in 1971 in London, England.January 01, 1971)※一部画像加工済

 まず上記の写真ですが、これは『時計…』のラスト、アレックスが夢想する「レイプ・ファンタジー」のシーンの一部です。現在視聴できるDVDやBD、2年前全国で開催された『ムービーマスターズ第1弾スタンリー・キューブリック』での上映でもこのシーンはカットされてていて存在しません。このシーンを見たというsaito氏の証言によると

 私が時計じかけのオレンジを初めて見たのは2001年宇宙の旅の1978年のリバイバルの翌年、恐らく1979年の時計じかけのオレンジのリバイバルだと思われますが、そのときのラストシーンは現在のショット(雪の上で中世風の人々に拍手を受けながらスローモーションで転げている男女)の直前に、(雪の上で中世風の人々に拍手を受けながらスローモーションでカメラに向かって駆けて来る裸の女性を追いかけるアレックス)のカットがあり、そのカットはズームバックで3分割されており、その3分割の間に病室で妄想に浸るアレックスのアップが2回カットバックされるものでした。その後に、現在のラストカットが続いていました。

KUBRICK.Blog.jp BBS『時計じかけのオレンジのラストカットの相違について』より)


という内容だったようです。

 同様の写真は『世界の名画&名優大全集 』(徳間書店:1976年)にも掲載されていて、それがこちらになります。

 また、海外のマルコム・マクダウェルのファンサイト『www.MalcomMcdowell.net』にも同じ記録があり、

On the call sheets this was called 'Rape Fantasy' that's why think this sequence was cut out because it shows Alex chasing the girl down and she looks horrified. It looks like he ripped her clothes off and she is trying to get away. By only showing the girl on top of Alex in the film it makes her look happy and it's consensual. You can't rape someone who is on top of you, they have to want to be there or they could jump off. This way Alex's final line, "I was cured all right" is ambiguous which Kubrick preferred. Was he cured to go back to his raping ways or was he cured to experience physical love?

 これはコールシートでは「レイプ・ファンタジー」と呼ばれていて、アレックスに追いかけられる女の子のシークエンスは、ぞっとするような印象を与えるためカットされたとされている。アレックスは服をむしり取り、襲いかかろうとしているようだ。フィルム上のアレックスの上に女の子を見せることによって、彼女は合意し、幸せであるように見える。あなたはレイプすることはできませんが、ここにいたいと思っていなければいけません。アレックスのセリフの最後の一行の「完全に治ったね」は曖昧です。キューブリックはどちらを好んだのでしょう?アレックスはレイプの方法を取り戻すために治ったのでしょうか。それとも肉体的な愛を経験するために治ったのでしょうか?


 以上の資料から、この「レイプ・ファンタジー」のシークエンスはsaito氏の証言通り、存在していたのは確実でしょう。

 次に、映画評論家の河原畑寧氏のこのコメント

「このスローモーションのレープ・ショー・シーンは日本公開版ではオリジナルよりかなり短くされている」

(キネマ旬報1972年5月上旬号より引用)


にも注目したいと思います。河原畑寧氏は初公開時のパンフレットに寄稿しているので、公開前の試写を観ているのは確実だと思われます。つまり、氏は試写でこの「レイプ・ファンタジー」を観ていて、その後公開版を観てカットされているのを知り、上記のコメントを書いたのだと思います。氏は、当時の日本はポルノに対して世界的にみても厳しい基準を設けていたので、カットされたのは日本公開版だけで世界公開版ではカットされていないと勘違いしたのでしょう。

 以上の証言・資料からある推論が導き出されます。つまり「試写の段階ではレイプ・ファンタジー・シークエンスは存在した」「その後キューブリックの要請によりカットされ、それが決定版になった」という推論です。キューブリックが公開ギリギリまでカットするのはよくあることなので、特に目新しい論ではありませんが、saito氏は初公開時ではなく、リバイバル時にこのシーンを観ています。どうしてこんなことが起こってしまったのでしょうか?

 試写が行われた以上、最低でも1本はレイプ・ファンタジー・シークエンスを含んだフィルムが日本国内に存在していたことになります。その1本、もしくはキューブリックのカットの指示が届く前にプリントした何本かが、何かの手違いで映画館に流通してしまったのでしょう。そしてその後のリバイバル時にはカットの事実は忘れ去られてしまい、レイプ・ファンタジー入りと、なしのフィルムが混ざってしまったままリバイバル上映に回されてしまったのではないでしょうか。

 この「レイプ・ファンタジー入りのフィルム」が何本存在していたのかは分かりませんが、もっと情報が集まれば何か新しい事実が判明するかも知れません。もし「私もレイプ・ファンタジーを観た」という方がいらしゃいましたら、

・ご覧になった年月日(年だけでも)
・ご覧になった映画館(無理なら都市名、もしくは地方名)

こちらの掲示板に情報をお寄せください。尚、掲示板に書き込まれた証言は、レイプ・ファンタジー検証記事に証言者名(情報のソースを明確にするためです。ハンドル名で結構です)も併せて使用させていただきますことを何卒ご了承ください。

 皆様の情報提供をお待ちいたしております。

情報提供:saito様