2019年7月29日月曜日

【関連記事】ペンギンブックス版『時計じかけのオレンジ』のカバーデザインを担当したデイビット・ペルハムのインタビュー

source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック


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左からバリー・トレンゴブ(ハイネマン・初版)、デイビット・ペルハム(ペンギンブックス版)、真鍋博(ハヤカワ文庫・初版)のアートワークがデザインされた小説版『時計じかけのオレンジ』のカバー。

 バリー・トレンゴブは映画の公開よりも前に『時計じかけのオレンジ』のペンギン版(注:ハイネマンの間違い?)の素晴らしいカバーをデザインしました。ペンギンの営業部は小説のカバーと映画のグラフィックとタイアップをしたかったのですが、キューブリックはそれを望みませんでした。結果的に、私は映画のポスターのような印象を与えられるアートワークの仕事を依頼されたという訳です。残念なことに、その後他の有名なエアブラシ・アーティストによって失望させられることになりました(ここではその名前を伏せておくことにします)。その人物は最終的にもっと制作時間を要求し、遅れたあげくひどい出来のものを提出したからです。締め切りが真近に迫っていたので、したくはありませんでしたが、受け取るわけにもいきませんでした。

 そういうわけで、日も暮れてから恐ろしいプレッシャーのもとで『時計じかけ…』のカバーデザインを作ることになりました。すでにほとんど時間がなく、一夜でトレーシングペーパーにアイデアを描き、朝4時に写植技術者に表紙カバー用のテキストを頼みました。5時にはバイク・メッセンジャーにタイプした編集者への指示書を手渡したのを覚えています。その後オフィスにて、このマットプラスチックのアセテート紙に黒の線画を描き、セパレーターに指定のカラーのオーバーレイをのせ、同時にカバーの複製を私の忠実な脳外科医のような技術を持つアシスタントによって貼り付けました。まったく優秀なアシスタントたちでした。

 それから、より多くのひしゃげたヘルメットをかぶったバイク・メッセンジャーがロンドンの街を行くのを見ました。そして私は自分の作品が有名になったのを知ったのです。当時としては何と早かったことか! 私が徹夜で急いで作ったものがコロンビアで宣伝用ポスターとして、トルコではTシャツ、ロスとニューヨークでは色々な用途にアイコンとして扱われるようになったのを見て驚嘆したものです。自分が作ったものだから余計に目に付きました。それはさながら騒々しいパーティー会場に入って、普通は聞こえないはずなのに、自分の名前を誰かが口にした瞬間にそれが聞こえるのと似たようなものでした。

(全文はリンク先へ:{ feuilleton }Design as virus 15: David Pelham’s Clockwork Orange/2012年10月8日




 ペンギンブックスのアートディレクターだったデイビット・ペルハムが、小説『時計じかけのオレンジ』のブックカバーのデザインをした経緯を語った記事がありましたのでご紹介。

 キューブリックはアメリカ版を読み、それをベースに映画化しましたが、小説『時計じかけのオレンジ』は1962年にイギリスのハイネマン社から初版が出版されました。映画の好評を受け、権利を獲得したペンギンブックスが再度出版する際に、キューブリックは何故かフィリップ・キャッスルが描いた映画版のアートワークを使用することを拒否します。理由は定かではありませんが、小説版が映画のノベライズだと勘違いされるのを恐れたのかもしれません(ハヤカワ文庫から出版された日本語版の初版のカバーイラストは真鍋博氏)。

 困ったデイビット・ペルハムは、一度は外部のイラストレーターに発注したものの、その出来に満足できず、苦し紛れにあの「歯車の目」のアレックスのグラフィックを作り出したわけですが、そのビジュアルが50年近く経った現在でも使用され続けているのは驚異的です。最近も書店でこのアートワークを使ったトートバッグを見かけました。ただ、このアートワークがキューブリック版の映画とは直接関係なく、キューブリックの管轄外であることはファンなら知っておくべき事実です。このアートワークはあくまで「ペンギンブックスのアートディレクターであるデイビット・ペルハムが、締め切りに追われ苦し紛れにキューブリックの映画版の印象を踏まえつつ作ったデザイン」であるということです。

 ところが、このアートワークに映画版の公式ロゴを組み合わせたデザインも存在します。それについて記事では

 伝えるところによると1972年(一年後の可能性も)のものらしいが、タイトルに映画のポスターからのタイトルデザインを使用している。映画記念サイトによると、「この別のR指定映画ポスターはニューヨーク、ロサンゼルスのみでの野外宣伝広告のためにデザインされた」という。映画はアメリカでは初週にX指定を受けてしまい、多くの映画館での公開ができなくなってしまうため、新たに再編集し、R指定映画となって公開された。1972年のペンギンのペーパーバックの背表紙にはペルハムのデザインがかなり後になってから広まるように、この版のアメリカでの販売を制限する版権制限の警告が書かれていた。

との説明がありますが、記事にある「野外宣伝広告のため」は守られず、管理人が1999年に当時ニューヨークにいた友人から送られてきたポストカードにも同じビジュアルが使用されていました。

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ペンギン版のアートワークにキューブリック版のロゴを合わせたデザインのポストカード。右はフィリップ・キャッスルによるキューブリック版のアートワーク(ヌード自販機のないバージョン)。

 このように、今となっては「キューブリック版」と「ベンギンブックス版」のアートワークは混用されてしまっていますが、その出自は異なるのではっきりと区別して認識すべきです。そのベンギンブックス版をデザインしたアートディレクターのデイビット・ペルハムが手がけた他のカバーデザインはこちらを参照してください。

(翻訳協力:Shinさま)