2015年2月12日木曜日

薄氷の殺人

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評








謎の美女に惹かれながら未解決の猟奇殺人事件を追う刑事の姿を描くクライム・サスペンス「薄氷の殺人」。寒々しく虚無的な映像が秀逸。



1999年、中国・華北地方。バラバラに切断された男の遺体が6都市15ヶ所の石炭工場で相次いで発見される。刑事のジャンがこの猟奇的な事件を担当するが、容疑者の兄弟が逮捕時に射殺され、事件の真相は闇の中へ。2004年冬、警察を辞め、しがない警備員として暮らしていたジャンは、被害者の美しい妻、ウーと関係する男2人が相次いで殺されたことを知る。ジャンは5年前の事件を洗い直し、意外な事実に行きつくが…。



孤独な男、雪が降りしきる極寒の地方都市とそこに輝く毒々しいネオン、そして薄幸の美女。舞台が整った感があるフィルムノワールだが、独特の映像美でつづる語り口が素晴らしいサスペンスだ。元刑事のジャンは自分が担当した事件を解決したいという願望以上に、近づいてはいけない美女への抗いがたい誘惑に負けたのだろうか。さらにいえば、事件を追うことで、情けない人生を送る自分への落とし前をつける覚悟なのだろうか。グイ・ルンメイ演じる、はかなげな表情の美しい未亡人には、ある秘密が。そんな彼女もまた、すべてをさらけだしてしまいたいとの欲望を抑えきれずにジャンに接近する。息が白く凍る冷え冷えとした大気の中、屋外スケート場、観覧車、武侠映画を上映する映画館など、ひとつひとつの情景が虚無感を漂わせて効果的に積み重なっていく。構図や色彩など、ビジュアルはどれもが独特で印象的だ。一方で、街路樹の根に遺骨を埋める女や屋内に迷い込む馬など、何やら象徴的なシーンもあって、映像だけでなくストーリーからも目が離せない。危険だと分かっていても惹かれ合う男女の情念と、殺人事件の真実が符合するとき、すべての謎が氷解し、「薄氷の殺人」という邦題の上手さが改めて伝わってくる。第64回ベルリン国際映画祭で金熊賞と銀熊賞を受賞したのも納得の傑作クライムサスペンスである。

【80点】

(原題「白日烟火/BLACK COAL, THIN ICE」)

(中国・香港/ディアオ・イーナン監督/リャオ・ファン、グイ・ルンメイ、ワン・シュエビン、他)

(ファムファタール度:★★★★☆)

チケットぴあ



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薄氷の殺人@ぴあ映画生活