2015年2月3日火曜日

繕い裁つ人

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評








洋裁店の頑固な女主人と彼女を取り巻く人々が織りなす人間模様を描く「繕い裁つ人」。職人のプライドと夢が同居するファンタジーのような物語。



神戸の街を見下ろす丘の上にある小さな仕立て屋「南洋装店」は、2代目の店主・市江が丁寧に作る一点ものの服が評判の店だ。祖母が始めた店で馴染みの客一人ひとりにオーダーメイドの服を仕立てる市江に、百貨店の営業マン・藤井がブランド化の話を持ち込む。頑なに断り続ける市江だったが「自分だけのオリジナルの服が作りたいはずだ」との藤井の言葉に心が揺れ始める…。



原作は池辺葵の人気コミック。三島有紀子監督は、これまで食にこだわった映画を作ってきたが、今回は衣。どこか安易な癒しが気になった過去作に比べて、今回は仕事に対する情熱の中に繊細な感情が込められていて、とても出来がよく、好感度が高い。主人公の市江は、劇中で“頑固じじい”と表現されるほどの職人肌だ。彼女の仕事は、祖母が始めた店を継ぎ、祖母が作った服の仕立て直しやサイズ直しをし、祖母のデザインを流用した服を作ることに徹している。コンセプトはたった一人のためだけに作る服。その服は直しながら一生着続けることができる宝物だ。今どき珍しいほど古風なヒロインを、中谷美紀が凛とした表情や繊細な視線の動きで好演する。ミシンを踏む後姿にプライドと誠実さを漂わせる一方で、チーズケーキをホールで食べる時の子供のように嬉しそうな顔が実にいい。伝統を守ることに徹すると決めていたヒロインは、それでもどこかで自分だけのオリジナルえの憧れがあったのだろう。伝統の中に変化する部分を認めた彼女が、小さな一歩を踏み出す姿が清々しい。少女マンガが原作だが、過剰な恋愛描写などなく、登場人物たちの思いは淡々と静かで、それがこの映画の雰囲気を洗練されたものにしている。見終わった後は、柔らかな逆光とカタカタと響くミシンの音が心に残っていた。

【70点】

(原題「繕い裁つ人」)

(日本/三島有紀子監督/中谷美紀、三浦貴大、片桐はいり、他)

(職人肌度:★★★★☆)

チケットぴあ



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繕い裁つ人@ぴあ映画生活