2015年6月28日日曜日

きみはいい子

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


([な]9-1)きみはいい子 (ポプラ文庫)
同じ街に暮らす人々の孤独と再生を描く群像劇「きみはいい子」。愛や癒しを安易に口にしないリアルなセリフに洞察力を感じさせる秀作。

新米の小学校教師の岡野は、まじめだが優柔不断な性格。クラスの子供の問題に正面から向き合うことができない。夫の海外単身赴任で3歳の娘・あやねと2人で暮らす雅美は、幼い頃に親から虐待を受けたため、たびたび娘に暴力をふるってしまう。小学校へ続く坂道の一軒家に一人で暮らす老人・あきこは、認知症が始まったのかと不安を感じている。ひとつの街でそれぞれに暮らす彼らは、さまざまな局面で孤独や不安と向き合っているが…。

原作は中脇初枝の同名短編集。「そこのみにて光輝く」でも丁寧な人間描写が光った呉美保監督は、それぞれが持つ心の傷や不安、孤独を、誰かにそっと抱きしめられることによって氷解させていくというクレバーな手法をとった。描かれるのは、幼児虐待、認知症、いじめ、モンスターペアレントといった社会の病巣と、現代人の孤独な日常。登場人物たちは皆、人との距離の取り方が分からない不器用な人間ばかりだ。物語は、大人と子どもの区別なく、傷つきやすい人間に対してあたたかいまなざしを注いでいる。特に、我が子を虐待する自分に嫌悪感を抱く雅美が、ママ友の中でちょっと見下していた陽子から、そっと肩と背中を抱きしめられる場面には、思わず落涙した。人は誰もが愛されたいと願うが、それを簡単に口にするとたちまち俗化する。そもそも彼らが抱える問題に安易な答はない。それでも、ひと時のぬくもりで確かに人は勇気付けられる。そのハグが「あなたは一人ではない」と励ましてくれる。岡野と雅美とあきこが直接的に交錯することはないのに、群像劇として3つが結びついてみえるのは、桜の美しさを愛でるあきこを演じるベテラン・喜多道枝の柔らかい空気感が、3人が共有する時間と巡る季節を感じさせてくれるからだろうか。ラスト、決意を込めた精悍な表情を見せる高良健吾の顔がとてもいい。いろいろと問題がある現代社会だが、希望は確かにあるのだと信じられる秀作。特別な事件は起こらない小さな物語でも、こんなにも人の心を動かす作品が生まれることに感激した。
【85点】
(原題「きみはいい子」)
(日本/呉美保監督/高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴、他)
(希望度:★★★★☆)
チケットぴあ

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きみはいい子@ぴあ映画生活