2015年11月20日金曜日

恋人たち

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評




橋梁点検の仕事をしているアツシは、数年前、愛する妻を通り魔殺人事件で失い、今では極貧生活を送っている。自分に関心を持たない夫とソリが合わない義母と暮らしながら、パート仲間と皇室のおっかけをしている主婦・瞳子は、パート先の取引先の男と親しくなる。完璧主義のエリート弁護士・四ノ宮は、同性愛者で高級マンションで恋人と暮らしているが、学生時代からの親友・聡のことを秘かに想い続けていた…。

「ハッシュ!」「ぐるりのこと」の橋口亮輔監督の、実に7年ぶりの新作が「恋人たち」。フランス映画で同名のタイトルの映画があるが、本作は、甘い恋模様とは無縁。それぞれに事情を抱える男女三人が、社会の理不尽や偏見、厳しい現実に容赦なくさらされる人間ドラマだ。アツシ、瞳子、四ノ宮の3人は、心の中にどす黒い闇を抱えていて、時折見せる、虚無的な表情が印象的。驚くのは、この主要キャラクターを演じているのが、素人に近いほとんど無名の俳優たちだということだ。橋口監督は、ワークショップで即興演技を指導して、演技の訓練をしたとのことだが、この実験的ともいえる演出が、功を奏している。3つの物語は重なる部分もあるが、どれも絶望的なまでに孤独感が漂う。現実社会の冷たさを、犯罪被害者へ冷たい司法制度や同性愛者への偏見で表す一方で、主要キャラ3人の弱さやエゴも容赦なくあぶりだした。橋梁点検に象徴されるように、内部から腐食している社会は、明らかに病んでいる。それでも人は生きていかねばならず、ささやかな希望を感じとって前を向くしかないのだ。好みとしては断然「ぐるりのこと」が好きだが、「ぐるりのこと」が完璧に計算された作品だとしたら、本作は原石のような面白さがある。
【60点】
(原題「恋人たち」)
(日本/橋口亮輔監督/篠原篤、成嶋瞳子、池田良、他)
(再生度:★★★★☆)
チケットぴあ

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