source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
大の発明好きの老人ヨヘスケルは、妻のレバーナと一緒にエルサレムの老人ホームで暮らしている。ある時、望まない延命治療で苦しむ親友マックスから懇願され、自らスイッチを押して苦しまずに最期が迎えられる安楽死装置を開発。レバーナからは猛反対されるが、仲間の助けを借りてマックスの最期を見送るのだった。ところが秘密にしていたはずのこの装置が評判になり、ヨヘスケルのもとには安楽死の依頼が殺到してしまう。一方で、愛する妻レバーナには認知症の兆候が表れ始めるが…。
ベネチア映画祭をはじめ、世界中の映画祭で評判を呼んだイスラエル映画の異色ヒューマン・ドラマ「ハッピーエンドの選び方」は、人生の最期“死”を自ら選ぶ権利を描く物語だ。安楽死や認知症といった重くシリアスな題材を扱っているのに、本作は実にユーモラスで軽やかである。イスラエル映画界の名優たちがひょうひょうと演じる“人生最期の演出”と、それを切望する老人たちの言動には、思わず吹き出してしまう場面も。元獣医から薬を調達し、元警官には証拠隠滅のヒントをもらうなど、計画はなかなか綿密だ。だがお人よしのヨヘスケルが友人の尊厳を守るための死をほう助することに対して心が揺れている時、妻レバーナが認知症になる。今までは、ただ苦しむ友を解放したいという思いだけだったのが、レバーナの症状が悪化するにつれ、“自分らしく生きること”を真剣に考え始めるのだ。死を扱っているのに、その目線の先には生がある。イスラエルらしくキブツ(社会主義的な農村共同体)のことがチラリと登場したりはするが、本作は、パレスチナ問題とも宗教問題とも無縁。人生の最期をどう迎えるかという普遍的なテーマを描くことで、高齢化社会を迎える世界中の人々の共感を得たのだろう。いや、これは他人事ではないと考えさせられた。
【70点】
(原題「THE FAREWELL PARTY」)
(イスラエル/シャロン・マイモン、タル・グラニット監督/ゼーブ・リバシュ、レバーナ・フィンケルシュタイン、アリサ・ローゼン、他)
・ハッピーエンドの選び方@ぴあ映画生活