2016年2月10日水曜日

十字架

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


十字架 (講談社文庫)
中学2年生の秋。いじめを受けていたクラスメイトのフジシュンこと藤井俊介が自殺する。遺書によって“親友”にされてしまった真田祐(ユウ)、自分の誕生日がフジシュンの命日になってしまった中川小百合(サユ)、息子をいじめた生徒ばかりではなく見殺しにした“親友”のユウのことを恨むフジシュンの父親、息子の思い出にすがりつく母親…。それぞれが十字架を背負い、共に苦難の20年を過ごすが…。

多くの作品が映画化される人気作家、重松清の吉川英治賞を受賞した同名小説を映画化した「十字架」。いじめにより自ら命を絶ったクラスメイトの周辺にいた人間の、それぞれの形で背負わされた十字架と、彼らの心の軌跡を描いている。親友にされてしまったユウの人生は、まさにフジシュンとともに歩んでいるかのようなものだ。「親友ならばなぜ助けなかった!」とユウを責める父親の叫びは、見て見ぬふりは、いじめと同じ同罪なのだとはっきりと訴えている。このあたりは「ソロモンの偽証」でも描かれていたが、傍観者であったことは、フジシュンの周囲にいた大人も同じなのだ。テーマはタイムリーだし、小出恵介、木村文乃の演技も安定している。父親を演じる永瀬正敏がこれまた良い。「地雷を踏んだらサヨウナラ」などの五十嵐匠監督の演出も丁寧だ。だがひとつだけ問題点が。それは中学時代を同じ小出、木村が演じているということで、いくらなんでも年齢的に無理がある。演技力で劣っても、ふさわしい年齢の若手俳優を使うべきだった。映画は、傍観者だった人間に焦点をあてることで、どんな立場にいようとも、いじめと真正面から向き合ってはじめて未来を見ることができると訴えている。重い内容で、正直、見るのはつらいが、大切なことを描いた作品だ。
【60点】
(原題「十字架」)
(日本/五十嵐匠監督/小出恵介、木村文乃、富田靖子、他)
(シリアス度:★★★★★)
チケットぴあ

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