2016年5月17日火曜日

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source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック



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 SFは無声映画の時代から映像化されてきた人気のジャンル。映画評論家の添野知生さんが、密接な間柄にあるSF小説との関係性を通して、SF映画の歴史をたどる。

〈中略〉

 このままでは映画は永遠に小説に追いつけない。この課題に意識的に取り組み、大逆転をもくろんだのが、スタンリー・キューブリックである。真に画期的なSF映画を作りたいなら、既存の原作に頼るのではなく、現代最高のSF作家と組んで、共同で構想を練ればいい。そう考えた彼は、アーサー・C・クラークとの共同作業を実現させる。

〈以下略〉


(全文はリンク先へ:日経電子版/2016年5月13日




 この記事の「このままでは映画は永遠に小説に追いつけない」との一文を読むとキューブリックは小説をライバル視していたかのように読めますが、決してそんなことはなく、むしろ同じアーティスト、クリエーターとして畏敬の念を持っていました。キューブリックは小説の脚本化を専門の脚本家にオファーすることはせず、小説家に依頼するのが常でした。それは脚本家の「手慣れた仕事っぷり」を嫌い、小説家のストーリーメイクの能力に期待していたからです(原作の小説家には依頼しないのは原作者の思い入れを映画に持ち込んでほしくないからと思われます)。

 また、キューブリック自身はストーリーメイカーとしての才能はないと自覚していました。『アイズ…』の製作中、脚本を担当したフレデリック・ラファエルに「私にもなにか手伝えればいいのだが、なにぶん私は小説家じゃないもんでね」とキューブリックらしい言い回しで応えています。

 ライバル視していたのはむしろ小説家の方でした。クラークはあまりにもキューブリック作品になりすぎた『2001年…』を取り戻すために『2010年宇宙の旅』という続編を書きましたし、『ロリータ』のナボコフは映画の後になって自身が書き直した脚本を出版しています。『時計…』のアンソニー・バージェスは(真意はどうであれ)キューブリックを激しく非難しました。スティーブン・キングの『(キューブリック版)シャイニング』へのコンプレックスは痛々しささえ感じます。『フルメタル…』のグスタス・ハスフォードは完全に蚊帳の外でしたが、『アイズ…』のフレデリック・ラファエルに至っては自著『アイズ・ワイド・オープン』でキューブリックへの私念を晴らしているようにも感じます。

 キューブリックはそのキャリアの初期から小説家と共に仕事をしてきました。ジム・トンプソン、ダイアン・ジョンソン、マイケル・ハー・・・。脚本を担当したのは小説家ばかりです。そんな「小説家大好き」なキューブリックが小説をライバル視していたとは到底思えません。キューブリックのライバルはやはり同時代の映画監督たちでした。それはキューブリックの極端な秘密主義者っぷりが雄弁に物語っています。