source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック
※『シャイニング』のエンディングに登場する1921年の独立記念日パーティーの写真。この写真の合成前の元ネタ写真はこちら。
The Shining producer explains ending changes
The Shining is a horror cinema masterpiece, and figuring out its haunting and iconic ending was no easy task for Stanley Kubrick. Below, executive producer Jan Harlan and screenwriter Diane Johnson (who wrote the script with Kubrick) explain in greater detail than ever before how the legendary director considered several very different conclusions for the iconic 1980 film.
〈以下略〉
(全文はリンク先へ:Entertainment Weekly/2017年3月30日)
ざっと翻訳ソフトを使って読んだところ
・キューブリックはホラー映画に興味はなかった。
・キューブリックはダニーと父親との関係に最も興味を持っていた。
・キューブリックはスプラッターシーンを好まなかった。
・スタッフがキューブリックにラストシーンの説明を求めたところ「幽霊映画だ、忘れなさい」としか言わなかった。
なおかつハーランやジョンソンの見解として
・ストーリーや制作上の連続性の欠如(ミス)が多くの陰謀論を生んでしまった
・屈辱的なのはホロコーストと結びつけたもので、それはホロコースト被害者を侮辱するものだ。
・ジャックがスクラップブックを地下室で発見するシーンは重要だと思っていたがカットされてしまった。
新しい事実として
・カットされた病院のシークエンスを写したポラロイド写真はキューブリックの三女、ヴィヴィアンが撮影したもの。
残念な話として
・未使用やカットされたシーンのネガは全て廃棄された。
このインタビューにはキューブリックとともに小説の脚本化を担当したダイアン・ジョンソンも同席していますが、彼女は「ジャックはどういうわけかホテルの輪廻を通した存在でした」という『シャイニング』の物語の核心部分を語っています。これはキングの小説版とは決定的に違う考え方です。小説『シャイニング』は、シャイニングというタイトルの着想源がジョン・レノンの曲『インスタント・カーマ』であることから、「カーマ」つまり「業(因果)」がテーマになっています。
小説では過去にホテルで行われた数々の悪行が「業(負の因果)」として積もり積もってゆき、やがてホテル自体が悪霊を呼びよせる悪魔のような存在へと変質していったことが示唆されています。しかしキューブリックはこの「ホテルを悪の化身」としたアイデアを採用せず、ホテルを「輪廻を繰り返す時空を超えた存在」として描いています。なぜ物語の根幹に関わる重要な変更をしたのかというと「輪廻によって現在と過去が結びつかなければ、アメリカという国が持つ過去の忌むべき歴史に言及できない」からだと思います。
この件はここでも検証しましたが、それも含めて整理しますと
●原作小説
ホテルの正体:悪魔
その理由:ホテルで行われた数々の悪行(業・負の因果)の結果
幽霊たち:悪魔の忠実なしもべ
ジャック:ダニーの聖なる力(シャイニング)を手に入れるための捨て駒
ダニー:聖なる力を持つ少年(天使)
●映画版
ホテルの正体:輪廻を操るネイティブアメリカンの怨霊
その理由:ネイティブアメリカンの聖地を汚し、土地を奪ったから
幽霊たち:ネイティブアメリカンの怨霊によって殺され、輪廻に閉じ込められた白人の霊
ジャック:ネイティブアメリカンの怨霊によって殺され、輪廻に閉じ込められる
ダニー:???(ダニーのシャイニング能力についてははっきりとした説明はない)
ということになるでしょう。
よくキューブリック作品は「ストーリーが破綻してしまい、結局観客に投げっぱなし」と誤解されるのですが、そんなことは絶対にあり得ず、こういった「裏設定」がしっかりと構築されています。よく知られているのは『2001年…』ですが、これはもう一方の原作者であるクラークが、積極的に情報を開示したからで、『シャイニング』『フルメタル…』『アイズ…』にも裏設定は確実に存在すると思います。ただ上記の記事の通り、スタッフが訊いても「忘れなさい」としか言わない説明嫌いのキューブリックからそれを導き出すのはかなり大変です。このブログでも様々な検証や論考を記事にしていますが、これらはあくまで管理人個人の考えでしかありません。まあでもご覧になっている方の「とっかかり」程度にはなるかと思いますので、是非参考にしてみてください。