source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
音楽家の坂本龍一は、2011年の東日本大震災以降、被災地を何度も訪問し、被災ピアノと出会う。津波に流されて水に浸ったそのピアノの音を聞き、自然の音を意識するように。原発再稼働反対デモに参加し、新たな音を求め北極やアフリカへ向かうなど、精力的に活動するが、2014年に中咽頭ガンであることを公にする。NYの自宅での曲作り、携わった映画、音楽への思いなどを、自らの言葉で語っていく…。
国際的に活躍する音楽家・坂本龍一の音楽と思索の旅を捉えたドキュメンタリー「Ryuichi Sakamoto: CODA」。過去のアーカイブ映像やプライベート映像などがふんだんに登場し、教授こと、天才音楽家の坂本龍一もまた自らの言葉で音楽への思いを語っていくが、何しろ監督のスティーブン・ノムラ・シブル監督が、約5年に渡って世界各地で坂本を密着取材したという執念にも似た熱意に打たれる。
音楽評は専門外なのだが、それでも坂本龍一という才能が唯一無二なのは明らかだ。音楽に対して深く真摯に向き合う彼が、最終的には自然の音へと回帰していくのが非常に興味深い。敬愛するアンドレイ・タルコフスキー監督の作品のような、自然を取り込んだこだわりの音を目指しているというのも納得だ。個人的には、映画音楽制作中の裏話を聞けたのが嬉しかった。古くは「戦場のメリークリスマス」「ラストエンペラー」、およそ1年の中咽頭ガン闘病を経て、復帰後は「母と暮らせば」「レヴェナント」。映画との関わりだけを見ても、坂本のパフォーマンスは常にハイレベルを維持しているのが驚異的だ。監督との信頼関係が深いのだろう、アーティストとしてすべてをさらけだした映像なのに、このドキュメンタリーは、非常にポエティックな映像詩のように、静謐な美しさが心に残る。
【65点】
(原題「Ryuichi Sakamoto: CODA」)
(米・日本/スティーブン・ノムラ・シブル監督/坂本龍一)