2018年4月23日月曜日

【考察・検証】『シャイニング』のラストシーンの意味を考察する

source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック




 『シャイニング』は、1921年のアメリカ独立記念日のパーティーの写真に写り込むジャック・トランスの写真のズーム・アップで終わります。BGMはアル・ボウリー・アンド・ヒズ・バンドの『真夜中、星々と君と』。まずはこういった要素を書き出して、さらにそれをどう解釈するか仮説を立ててみました。なお、これは以前この記事で考察した「オーバールックホテルに救っている悪霊の正体は、かつてここを聖地としたネイティブ・アメリカンの怨霊」という私論に基づいていますので、その点はご了承ください。

(1)写真の日付についての考察[その1]

 1921年のアメリカというのは禁酒法の時代で、一般的には飲酒は禁じられていたという印象がありますが、実はこの禁酒法はとんでもないザル法で、禁酒といいながら一般市民も法律の目をかいくぐってお酒を飲んでいました。それは結局マフィアの資金源となってマフィアの懐を潤し、アルコールに課税できなくなった政府の財政を逼迫させ、マフィアの跋扈によって治安が悪化するという悪い事づくしの悪法でした。

 そんな時代に『オーバールック・ホテル』で開かれたこのパーティー。俗世間から隔絶されたその環境から推察するに、そこに集う人々は上流階級、各界の有名人、政治家、そしてマフィアが秘密に開いた「飲酒ができる」パーティーであったと想像できます。それは「お酒が飲めるぞ!」とジャック・トランスが満面の笑みで映っている事からも推察できます。

(2)写真の日付についての考察[その2]

 7月4日はアメリカ人にとって一番重要な日です。すなわち独立記念日です。しかしそれは大西洋を渡ってきた白人たちにとってであり、元からアメリカ大陸に住んでいたネイティブ・アメリカンにとっては「侵略確定記念日」、すなわち屈服・屈辱の日でしかありません。

(3)BGMについて

 アル・ボウリー・アンド・ヒズ・バンドの『真夜中、星々と君と』という曲ですが、この曲のリリースは1934年2月16日ですので写真の日付とは合致しません。この事実からこのBGMは物語の舞台である1980年のオーバールック・ホテルで演奏されていると考えなければなりません。すなわち、人間が誰もいなくなったホテルのゴールドルームで、幽霊たちが演奏しているのです。音楽にエコーをかけているのはそのためだと思われます。音楽の後に続くパーティーのノイズは、幽霊たちのパーティーが今も(1980年の)ホテルで続いていることを示唆しています。

 以上の描写から、ジャックが写り込んだ1921年の写真は、ジャックがオーバールックホテルの管理人になる前からこのホテルに存在していることになります。それはつまり「ジャック」という人物が二人存在していることを意味するものです。

 さて、ここで思い出して欲しいのは「グレイディ」の存在です。アルマンが面接時にジャックに説明したのは「チャールズ・グレイディ」ですが、幽霊として登場したのは「デルバート・グレイディ」でした。ここで「二人のグレイディ」の存在が明らかになります。この二人は顔がそっくりな別人で、ホテルが1970年に採用したのは現代のグレイディ、ジャックの目の前に現れたのは前世のグレイディなのです。それは前世のグレイディが管理人ではなくウェイターで、娘の殺害を覚えていないと答えることからもわかります。

 この考えをジャックに当てはめると、現代の「ジャック・トランス」は迷路で凍りついた死体です。前世の「ジャック・〇〇〇(名前不明)」は1921年のパーティーでタキシードをめかしこんで写真に収まっているホテルの管理人です。つまりジャックも二人存在していることになるのです。だからこそジャックが「初めて面接で来たとき、昔来たことがあるような気がした」「どこに何があるのかも覚えてる気がした」という台詞が存在しているのです(コンチネンタル版ではカット)。

結論:ジャック・トランスと1921年のパーティーに写っているジャックは別人で、後者は前世のジャックである。ホテルに巣食うネイティブ・アメリカンの悪霊の目的は、ホテルの立つ聖地を汚すした白人を、その当人だけでなく後世の人間まで呼び寄せて殺害すること。アルマンはそれを知りつつも霊が暴れ出さないよう「いけにえ」を与えることによって悪霊に協力している。それを示すシーンはカットされた病院のシーン(霊がダニーに黄色いボールを渡したアルマンは知っている)である。

 『シャイング』のラストシーンの解釈にはさまざまな論がありますが、当ブログではとりあえずこれをもって結論としたいと思います。