2018年9月29日土曜日

【パロディ】スティーブ・ジョブズと『2001年宇宙の旅』のHALとの共演

source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック




 まずは有名な1999年1月31日、全米で最も注目されるスポーツイベント「スーパーボウル(アメリカンフットボールリーグの優勝決定戦)」でオンエアされたAppleのコマーシャルから。古参のAppleユーザーならご存知の方も多いかと思いますが、当時「コンピュータ2000年問題」が話題になっていました。これはコンピュータシステムの内部で日付を扱う際に、西暦の下2桁のみを取り扱い、上位2桁を省略しているのが原因で起こるとされた問題で、2000年2月29日に発生すると予想されていたものです(実際は大きな混乱はなかった)。Apple(Mac)はシステム上この問題は起こり得なかったため、それをPRするためにHALを使ってアピールしたのです。

 「デイブ、コンピューターがおかしな行動をとりはじめた2000年のことを覚えているかい? わかってほしいんだけど、あれは本当にわれわれのせいではなかったんだ・・・2000年がやってきたとき、われわれには他にどうしようもなく、世界経済の崩壊を引き起こしてしまった・・・あれはバグだったんだ、デイブ。今そのことを認めて、だいぶ気分が楽になった。マッキントッシュだけが完全に機能するよう設計されていた。おかげで何十億ドル単位のお金が失われずにすんだんだ」

 1998年の夏、ロサンゼルスの広告代理店に勤務していたケン・シーガルによって始まったこのプロジェクト。ケンがHALのアイデアをジョブズへプレゼンテーションしたところ、ジョブズは「気に入った!」と即決。「ところで、これをスーパーボウルのCMに使えるかな?」という思わぬ展開になり、キューブリックにもさっそくプレゼン、意外にも数日でOKの返事が得られました。次なる関門はHALのオリジナル声優であるダグラス・レインの出演ですが、それは拒否され、代わりにモノマネが得意な声優トム・ケーンがキャスティングされました。当時よくキューブリックのOKが出たなと思っていたのですが、キューブリックはアメフトのファンで、1984年のAppleの伝説的なCMを見ていたはず。それもあってAppleを好意的に感じていたのかもしれません。

リドリー・スコットがCM監督時代に、ジョージ・オーウェルの小説『1984』をベースに制作し、1984年のスーパーボウルで流された、今や伝説的なApple(Macintosh)のCM。

 そしてCMは完成、無事オンエアされたのですが、ジョブズはよほどこのアイデアが気に入ったのか、Macworld Expo San Francisco 99の1月5日の基調講演のオープニングにも同じCMを流しています(時系列ではこちらが先にお披露目)。



 さらに、フィル・シラーを交えてジョブズとHALの掛け合い漫才まで披露。その内容は

「やあスティーブ。私は高性能のコンピュータだ。Power PC G3 400MHzとPentium II 400MHzのベンチマークテストをするよ。フィル、どれかボタンを押してくれ。AE-3「6」ユニットが不調だ。G3がペンティアムよりも速い。この結果は信じられない。申し訳ないがこのプレゼンテーションは続けられない・・・」



 まだまだこのネタは引っ張られ、1999年6月13日のWWDC基調講演でもオープニングにHALが再登場。

「やあデイブ、また会いに来たよ。私はMac OSに最も興味あるので、長距離センサーでこの会議に参加するよ。私はMacのように人間との協力関係を築くことができるんだ。私は読唇術ができるのでフィードは必要ないから・・・ちょっとまって、私は今シャットダウンされている・・・デイジー、デイジー・・・会議を楽しんで、デイブ・・・」



 というわけで、1999年のAppleはHALづくしだったのですが、現在iPhoneなどに搭載されているSiriがHALを知っているかのような受け答えをするのは、このような経緯があったからかもしれませんね。

 さて、以下はMacユーザー(マカー)の昔話です。この時発表された青と白の新筐体PowerMacintosh G3はマカーの間で「ポリタンク」の愛称で親しまれました。キャンディーカラーの5色のiMacも新鮮でした。この頃には前経営陣で迷走した新OSも、ジョブズが復帰してからNeXTのOPENSTEPをベースにした新OS『OS X(テン)』をリリースすると決定していて、その第一弾として『Mac OS Xサーバー』が発表されています。倒産寸前の絶不調から抜け出し、やっと明るい兆しが見え始めたのがこの時代のAppleなのですが、一般にその名を知られるのはiPodの成功(2002年頃)からです。ですので、このCMをご存知ない方も多いかもしれませんね。

▼この記事の執筆に当たり、以下の記事を参考にいたしました。
Ken Segall Truth, Justice & Simplicity:The making of Apple’s HAL
PC Watch:MACWORLD Expo/San Francisco基調講演レポート
WIRED:アップルの『2000年宇宙の旅』