2019年6月23日日曜日

【ブログ記事】『2001年宇宙の旅』でボーマンがキーボードを弾くシーンはどこにあったのか?

source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック


bouman_piano

 以前この記事で、1969年に刊行された『キネマ旬報 臨時増刊 世界SF映画大鑑』に『2001年宇宙の旅』のシナリオ採録があり、そこにはボーマンがピアノ(キーボード)を弾くシーンが掲載されているとの情報がありましたが、そのムックを入手いたしましたので、そのシナリオ採録の該当部分を抜粋いたします。



〈前略〉

プール、コンピューターのハルを相手に将棋を指している。テーブルの上に電気で将棋盤が映っている。

プール「とにかく・・・クィーンを取って・・・歩だ・・・」
ハル「角が歩をとる」
プール「飛車と王と」
ハル「悪いが、フランク、君はミスを犯した。角がクィーンを取る。歩が角を取る。王手だ」
プール「君の言う通りだ、負けた」
ハル「楽しいゲームをありがとう」
プール「ありがとう」

眠っていたデイヴィッド・ボウマンが目を覚ます。
コンピュータが声をかける。

ハル「お早う、デイブ」
ボウマン「お早う、ハル」
ハル「よく眠れたかい?」
ボウマン「とってもね。万事順調か?」
ハル「すべて順調だ」
ボウマン「それはいい」

ベッドで眠っているプール

ピアノを弾くボウマン


ボウマン、棺桶の中で冬眠中の三人の乗組員の顔をスケッチしている。
コンピュータがまた、その彼に声をかける。

ハル「今晩は、デイヴ」
ボウマン「調子はどうだい、ハル?」
ハル「すべてスムーズに行っているよ。君は?」
ボウマン「ああ、悪くないね」
ハル「何をしていたんだね?」
ボウマン「スケッチさ」

〈以下略〉

採録:田山力哉




 以上のように、ボーマンがキーボードを弾くシーンは「プールとHALのチェスのシーンとボーマンがスケッチしているシーンの間」だということがわかります。このシナリオの採録は試写のフィルムがソースだったと思われますが、採録を読む限り最終版に追加された「人類の夜明け」「木星計画」のスーパー、月を見るものが一瞬モノリスを思い出すインサートカットの記述がありません。となると、元の試写用フィルムからキューブリックの指示通りカット(月面での生活など)したものの、このボーマンのキーボードシーンだけはカットし忘れたのではないかと想像します。であれば、カンザス州の保管庫で見つかりワーナーが保管しているという、キューブリックがニューヨークの試写後にカットしたフィルムに、このシーンが含まれている可能性は高いと言えるでしょう。

 ところでこの採録、内山氏が語るようにかなり酷い和訳や、シーンを理解していないト書きが散見されます。もはや伝説となったフロイドの娘が欲しがったブッシュベビー(小型のサル)の「乱れ髪の赤ちゃん」の誤訳もここが原因のようです。また、このページに続く『2001年撮影秘話』も当時の情報不足からくる間違い、勘違いが多く、とても一次資料にはなり得ません。ただ、情報の少ない「当時の空気感」を感じることはできますので、入手は古本屋かヤフオクなどに限られますが、興味のある方は探してみてはいかがでしょうか。

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