source: KUBRICK.blog.jp|スタンリー・キューブリック
1977年に出版されたスティーブン・キングの小説『シャイニング』のカバーイラスト。
1997年にTVドラマ(ミニシリーズ)で映像化された『シャイニング』のキャスティング。カバーイラストと印象が非常によく似ている。
小説『シャイニング』初版本の書影。
小説『シャイニング』は1977年にハードカバーとして初版が発刊され、以降ペーパーバックスなどで重版がされてきました。1977年といえばキューブリックは映画化を決め、プリプロダクションをしている頃。その初版ハードカバーのカバーイラストが上記になりますが、これを見てピンと来る方も多いかと思います。そうです、後年キューブリックの『シャイニング』に不満を持ったスティーブン・キングが再映像化したTVドラマ版『シャイニング』のキャスティングにそっくりなのです。
このカバーイラストをキングが監修したか否かは情報がありませんので不明ですが、少なくとも再映像化の際にこの印象を「引きずった」のは確実だと思われます。背景に書かれたホテルも、実際にキングが投宿し舞台のモデルにした「スタンリー・ホテル」にそっくりですし、映画版ではボツにされた生垣動物もクリケットの槌も描かれています。個人的にはこのイラストをキングが監修した可能性はかなり高いと思っています。つまり、キングの本音としては「初版カバーイラストのイメージで映画化して欲しい」ということだったのではないかと思います。
キューブリックが映画制作時に使用したゲラに直接書き込んだメモ書き。
キューブリックは出版前のゲラを読んで映画化を決めていますので、当然ですがその時点ではこのイラストを見ていません。その後この初版ハードカバーのイラストを見たかどうかも不明です。しかし、キューブリックはキングが書いた脚本を読みもせずに拒否したり、キャスティグの提案も一蹴したことは知られています。つまり「映像化はこちらの自由にさせてもらう」ということだと思います。もちろん見たとしてもキューブリックがこのカバーイラストに影響されることはなかったでしょう。ジャック・ニコルソンのキャスティングは早い段階からすでに決定済みでしたし、キャラクターを大きく改変されたウェンディに至っては「いじめられやすそうな人でないと」と発言しています(小説版やTVドラマ版のウェンディは夫との不和や過去のトラウマに悩まされつつも、我が子を守る自立した力強い女性として描かれている)。
キングが監修したTVドラマ版『シャイニング』は、キューブリックが好き勝手に改変した映画版『シャイニング』を、自身が取り戻すための映像化だった、というのはよく語られる話です。この初版カバーイラストは、それを裏付ける非常に有力な「傍証」と言えるのではないでしょうか。ただ、それが「成功」だったかどうかはまた別の話ですね。