source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
(ショートバージョン)
冴えない中年セールスマンのサムとヨナタンは、暗い顔で面白グッズを売り歩いている。彼らの周辺には、どこかおかしな連中がたくさんいる。若い男に気があるフラメンコ教師、船酔いする船長は床屋に務め、60年も同じカフェに通う老人もいれば、現代のバーに、18世紀の騎兵隊が立ち寄ることも。何をやってもうまくいかない彼らの人生の断片が、淡々と映し出されていく…。
スウェーデンを代表する監督ロイ・アンダーソンの新作「さよなら、人類」は、ベネチア映画祭金獅子賞(最高賞)を受賞した話題作。だが、「散歩する惑星」「愛おしき隣人」に続く3部作の完結編である本作は、相変わらずのアンダーソン節全開の脱力系悲喜劇だ。映画冒頭に博物館の恐竜骨格剥製が登場し、愚かで愛しい人間たちをじっとみつめているという構図に代表されるように、暗いのに笑いを誘う、とぼけたエピソードが次々にスケッチされる。死との出会い、歴史への独自解釈、中年男たちの友情。それらを描くワンシーンワンカットによる計算された構図は、膨大な時間と労力をついやしたアナログの極地で、まるで静かに動く絵画のようだ。1943年生まれのアンダーソン監督は極端に寡作な作家だが、いざ作るときの気合いとこだわりはハンパじゃない。まったりとした描写の中に、時折挿入されるブラックな衝撃エピソードもあるので要注意だ。「元気そうでなにより」のセリフが繰り返されるたびに、観客は、静かに、でも確実にアンダーソン・ワールドにからめとられてしまう。映画の意味が分かるかどうかはもはやどうでもいい。この奇妙な世界にいつまでもひたっていたいと思う自分がいた。ヤバい!完全に術中にはまっているではないか!
【70点】
(原題「A PIGEON SAT ON A BRANCH REFLECTING ON EXISTENCE」)
(スウェーデン・ノルウェー・仏・独/ロイ・アンダーソン監督/ホルゲル・アンデション、ニルス・ヴェストブロム、カルロッタ・ラーソン、他)
・さよなら、人類@ぴあ映画生活