2015年2月14日土曜日

フォックスキャッチャー

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評








財閥御曹司が金メダリストを射殺した事件を描く実録ドラマ「フォックスキャッチャー」。静かな狂気を漂わせるスティーヴ・カレルが素晴らしい。



マークはレスリングのオリンピック金メダリストでありながら、練習環境にも恵まれず、経済的にも苦しい生活を送っていた。ある日、デュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンから、ソウル・オリンピック金メダル獲得を目指したレスリングチーム“フォックスキャッチャー”に誘われる。マークにとってそれは夢のような話だった。デュポンとマークは、名声や孤独、心の中に隠した欠乏感など、多くを共有し惹きつけあうが、デュポンの秘めた狂気が現われるにつれて彼らの関係性も変化することに。さらにマークの兄で、同じく金メダリストのデイヴがチームに加わったことで、誰もが予測もしない事態へと発展することになる…。



米国有数の財閥の御曹司ジョン・デュポンが元金メダリストを射殺。1996年に起こった、この衝撃的な事件を取り扱う本作は、最初から最後まで冷え冷えとした空気に満ちている。実話なので結果は分かっているのに、終始、緊張感が絶えないのだ。アメリカではレスリングはマイナーなスポーツで、金メダリストといえども境遇は恵まれない。そんなレスリングをなぜか偏愛する大富豪がいて、彼は自分のチームでの世界制覇を目指していた。生まれながらに莫大な富と権力を手にしているが母親の愛情や理解を得られないデュポンが内面に秘める狂気。兄デイヴを心から慕いながらも、兄の影響下から抜けだせないマークの劣等感と脆さ。孤独と欠乏感が2人を結びつけたのは自然に思える。妻子と幸せな家庭を築き健全で論理的な常識人デイヴは、不協和音そのものなのだ。デュポンはデイヴに対し、あまりにも唐突に引き金を引くが、そこにいたる説明はほとんどない。映画全体を見ても、説明的な要素はなく、セリフや音楽も最小限。だからこそ、登場人物たちの感情の軋みが浮かび上がってくるのだ。出演俳優は皆、名演をみせるが、中でもコメディーのイメージが強いスティーヴ・カレルが素晴らしい。能面のような薄気味悪い表情からは、歪んだ関係性の中で極限に達した愛憎と狂気がにじみ出るかのようで、安易な共感など許さない迫力がある。それぞれの俳優の新境地を見事に引き出したベネット・ミラー監督の手腕に驚かされた。

【80点】

(原題「FOXCATCHER」)

(アメリカ/ベネット・ミラー監督/スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、他)

(愛憎度:★★★★☆)

チケットぴあ



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