2016年2月13日土曜日

ディーパンの闘い

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


内戦下のスリランカを逃れた元兵士ディーパンは、フランスに入国するため、赤の他人の女ヤリニと孤児の少女イラヤルと共に、偽装家族を装い、難民審査を通り抜ける。団地の管理人の職を得たディーパンは、3人でパリ郊外の集合団地の1室に住み、互いに距離を縮め、本当の家族のようになっていく。だが、団地に巣食う密売組織や、ディーパンがかつて所属していた組織などによって、暴力にさらされることに。ディーパンは、愛するものを守るため、一度は捨てた武器を再び手にする…。

スリランカ内戦を逃れフランスで偽装家族となった元兵士と女と少女の物語を綴る「ディーパンの闘い」。名匠ジャック・オーディアール監督は、内戦、移民、難民、暴力といったタイムリーな素材を、家族という普遍的なテーマを通して描いていく。主人公を演じるアントニーターサン・ジェスターサンは、実際に元タミル・イーラム解放の虎に入隊していた兵士で、現在は作家として活躍しているが、演技は未経験。だがその存在感は圧倒的だ。擬似家族から真の家族の絆が生まれること、ささやかな幸せ、密売組織のボスと家政婦となったヤリニの心のふれあいなど、殺伐とした物語の中にふと立ち現れる優しさが心に染みる。愛する者に危険が迫ったとき、闘う決心をしたディーパンの行動は、まるでフィルム・ノワールか任侠映画のような様相なのだが、そのバイオレンス描写にはどこか幻想的なムードが漂っていた。ディーパンが持つ政治的な主張はよくわからないし、偽装家族に対する責任感の軸にも一貫性はみられない。乱暴なまでに暴力へとなだれこんだ後の、ラストの“幸福”もまた現実とは思えない唐突さだ。これはもしや夢なのか。少なからずとまどってしまったが、オーディアール監督は、26年間も内戦が続いた地で地獄を見た主人公の精神性には、矛盾がある方が自然ととらえているのかもしれない。個人的には「預言者」の方が作品の完成度は高いと感じているが、移民問題というタイムリーなテーマが響いたのだろう、カンヌ映画祭では、並み居るライバルを抑えて最高賞パルムドールを受賞している。世界の“今”をリアルに切り取った作品だ。
【75点】
(原題「DHEEPAN」)
(フランス/ジャック・オーディアール監督/アントニーターサン・ジェスターサン、カレアスワリ・スリニバサン、カラウタヤニ・ヴィナシタンビ、他)
(社会派度:★★★★☆)
チケットぴあ

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ディーパンの闘い@ぴあ映画生活