source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
2011年3月11日、午後2時46分。東日本大震災が発生し、巨大地震、津波に伴い、福島第一原子力発電所で事故が起こる。全電源喪失の事態に陥った福島第一原発には、チェルノブイリに匹敵する最悪の事態が迫っていた。情報不足で混乱を極める首相官邸、千年に一度という想定外の事故の前で判断を誤る科学者や電力会社、さらには故郷を離れ避難を急ぐ市民たちなど、日本全国が大混乱に陥っていく…。
東日本大震災を題材にした映画「太陽の蓋」は、震災に伴う福島第一原発事故の発生から5日間を、1人の新聞記者の視点で再現した実録ドラマだ。原発事故に対応した当時の内閣閣僚はすべて実名で登場、一方で、東京や福島で暮らす市井の人々の姿も描いている。官邸の中での出来事は、一般市民には知る由もないが、原発事故の経過や対応をほぼ事実に沿って描くストーリーは、すさまじい緊迫感だ。全電源を喪失した原発は、冷却装置を失い、原子炉は温度が上がり続け、原子炉建屋水素爆発、続いて起こるさまざまな異変と、まさに日本の破滅へのカウントダウンを見ているかのよう。保身に走る民間企業上層部の態度に怒りを覚える一方で、この事態を予測できた人間の無力感も際立っている。映画は原発事故の真相を追う新聞記者の目を通して描かれるが、あくまでも官邸サイドにたった作りだ。当時の政府や閣僚の人々の判断が正しかったのかという議論は、今もなお続いているが、このような生々しい内容の映画が作られるということは、東日本大震災から一定の時間が経過したのだということを痛感せざるを得ない。大きな事故・事件の直後は、映画は悲劇を喚起する内容の作品の公開を控える傾向にある。復興は今だに遠いというのに、時間だけは経っているのだ。
【60点】
(原題「太陽の蓋」)
(日本/佐藤太監督/北村有起哉、袴田吉彦、三田村邦彦、他)
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