source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
スキー場での事故によって膝(ヒザ)に重症を負った弁護士のトニー。彼女はリハビリのために入院し治療に励むが、そこで医師から「心の痛みと身体(とりわけ膝)の傷みは連動する」と言われ、かつて愛した夫ジョルジオとの波乱に満ちた関係を思い出す。10年前、レストラン経営者でいつも女性を引き連れていた華やかなジョルジオと再会したトニーは、憧れの存在だった彼に大胆にアプローチし、激しく愛し合うように。結婚し子どもを授かって幸せの絶頂を迎えるが、かつての恋人との関係を断ち切れないなど、ジョルジオの度重なる不実な態度にトニーの心はズタズタになっていく…。
事故で負傷した女性弁護士がリハビリに励みながら、元夫との激しい愛をふり返っていくドラマ「モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由」。夫の度重なる裏切りに遭った妻の苦悩を描くが、それを膝の大怪我のリハビリをしている現在から、回想する形で描く手法が興味深い。医学的なことはわからないが、体をいたわることで心も癒されるというのはよく聞く話だ。傷みをこらえてリハビリする合間に思い出す10年は、ダメ男を愛してしまったがゆえに、何度も傷つけられ、それでも彼との関係が断ち切れなかった波乱万丈の日々で、心の傷はまだ完全に癒されてはいなかったのだ。元カノとの関係、無責任な債務不履行、浮気にクスリと、まるでダメ人間の見本のようなジョルジオを、自立し教養もあるトニーはなぜ許すのか。答えは、恋愛至上主義のフランス映画らしく、劇中に登場する「それが愛」というセリフが代弁している。この盲目的ともいえる愛には、正直、共感する部分はほとんどなかったが、社会から隔離された施設でリハビリすることで心の平穏を取り戻し、文字通り、再び自分の足でしっかりと歩き出して再生する姿には好感が持てる。注目の女性監督マイウェンは、トニーを被害者のようには描かず、映画は、欠点だらけのダメ男・ジョルジオのことも決して責めない。トニーが本当に強い女性だからこそ、傷ついたその日々は人生の糧となっているのだから。エマニュエル・ベルコは、いわゆる美人ではないが、揺れ動き、傷つき、それでも立ち直ろうする激しさと柔軟さを併せ持つヒロインを体当たりで演じて好演だ。
【65点】
【65点】
(原題「MON ROI/MY KING」)
(フランス/マイウェン監督/ヴァンサン・カッセル、エマニュエル・ベルコ、 ルイ・ガレル、他)
・モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由|映画情報のぴあ映画生活