2016年1月20日水曜日

殺されたミンジュ

source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評




ある晩、女子高生ミンジュが複数の男たちに無残に殺される。この事件は新聞にも載らず、すぐに忘れられてしまう。それから1年後、ミンジュの死の真相を探る謎の集団が現れる。7人組のその集団は、事件に関わった容疑者を一人ずつ誘拐しては拷問し、自分がしたことを告白させていくのだった…。

韓国の鬼才キム・ギドク監督の新作「殺されたミンジュ」は、壮絶な暴力を通して、死にゆく民主主義を浮き彫りにするサスペンスフルな物語だ。ミンジュが殺された理由ははっきりとは明かされないが、何か強大な権力の犠牲になったことは察しがつく。誘拐された容疑者たちが繰り返すのは「上からの命令に従っただけだ」という言葉だ。善悪の判断さえなしに、ただ指示されたという理由だけで悪に手を染める容疑者。一方、彼らに制裁を加える謎の集団は、社会の底辺にあえぐもので構成されているが、彼らもまた暴力に高揚し暴力におびえ、自己を見失う。容疑者と集団はいびつな形の相似形で、被害者と加害者は常に入れ替わるのだ。それは、容疑者の一人を演じるキム・ヨンミンが、劇中、1人8役を演じていることからも見て取れる。韓国の民主主義は死につつある。今のままでいいのか?!と映画は訴える。ミンジュとは韓国語で民主主義の意味だそう。そう考えると、邦題はなかなか意味深だ。原題は「一対一」の意味。国民一人ひとりが尊重されない社会で、自分とはいったい何者かと問いかけている。暴力はギドク監督が繰り返し描いてきたテーマだが、本作では、これまで寡黙でアーティスティクな作風だったのが一転、饒舌と言ってもいいほど大量のせりふがさく裂しているので、少なからずとまどった。エンディングは見る人によって解釈が異なるだろう。個人の存在が権力の闇によって踏みにじられる社会を痛烈に批判した問題作だ。
【60点】
(原題「ONE ON ONE」)
(韓国/キム・ギドク監督/マ・ドンソク、キム・ヨンミン、イ・イギョン、他)
(暴力度:★★★★★)
チケットぴあ

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殺されたミンジュ@ぴあ映画生活