source: 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
戦地へ息子を送りだす母の思いを描くヒューマンドラマ「おかあさんの木」。あまりにも真面目すぎて悪口も言えないが、母親の側から反戦を訴える物語は新鮮。
昭和初期、長野県の小さな田舎の村に住む田村ミツは、夫に先立たれるが、7人の子供たちと慎ましくも幸せに暮らしていた。だが戦争が始まり、息子たちは次々に兵隊にとられてしまう。ミツはその度に桐の木を植えて、世話をしながら息子たちの無事を祈っていた。だが息子たちが再び母のもとへ戻ることはなく、次々に戦死の報が届けられる…。
原作は、長期にわたり小学校の国語教科書に掲載されてきた故・大川悦生による児童文学。物語は、現代のとある老人ホームに入居している老婆が、田園地帯に立つ7本の桐の木の由来を語る形で進む。配給会社の東映は、節目節目に戦争映画の大作を制作してきたが、今回は戦地で戦う男たちではなく、残された女性、とりわけ母親の立場にたって物語ることで静かな反戦映画となった。戦争によって人生を翻弄される名もなき市井の人々の物語であることは好感が持てるし、お母さんを演じる鈴木京香の凛とした佇まいもまた感動的である。ロクに文字も読めない母親のミツが、ついに戦争に異を唱えるかのように息子の足にすがりつくシーンは、往年の名作「陸軍」の田中絹代を彷彿とさせる。子どもに生きて帰ってきてほしいと願う当たり前のことが許されなかった時代の母の愛があまりにも切ない。現代、土地の整備事業のため桐の木を切ろうとする役人に、老女は「あの木を切ってはならん…。あれは…おかあさんの木じゃ…」とつぶやくが、その言葉は役人は届いていない。やはり戦争の記憶は遠くなってしまっているのだ。だからこそこの映画は、戦争の悲劇を忘れてはいけないと訴えている。
【65点】
(原題「おかあさんの木」)
(日本/磯村一路監督/鈴木京香、志田未来、三浦貴大、他)